「コーラン經」 左度品 第三十八 【アル・サド】 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
左度品【アル・サド】(1-88節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 サド。ヘ戒多き可蘭によりて。洵に不信は驕慢にして派を別ち爭ふ。
二 如何に多くの代をわれ渠等の前に滅却せしよ、渠等は(慈悲を)叫べり、されど遁るに時なかりき。
三 渠等はその中より警戒の出でしを異しみいへり、これ幻道なり虛言なり
四 ~祇を唯一~と爲すか、實に是驚くべしと。
五 渠等の中の主背き去りていへり、進め、爾曹の~祇を固持せよ、實にこれ企みしことなり、
六 吾曹は前のヘにて斯ることを聞かざりき、こは計に外ならす、
七 吾曹の中にて(他に超えて)渠にヘ戒の下りしとやと。洵に渠等はわがヘ戒に就きて疑を懷く、されど渠等は尙未だわが報復を昧はず。
八 爾曹の~偉大博愛なる~の慈惠の寶渠等の手にありや。
九 天地とその閧フ萬物の王國渠等の有たりや。若し然らば渠等をして蠅によりて(天に)昇らしめよ。
 如何なる連盟の軍も敗るべし。
一一 ノアの民もアド(族)も、刑柱の工夫ファラオも
一二 タムド(族)も、ロトの民も(マヂアンに近き)森林の住民も、渠等以前に僞瞞を以て(の豫言を)責めたり、此等は皆(~の使に對して)連盟せり。
一三 總べて(渠等は)虛妄を以て(その)使徒を責めき、故にわが報復は正しく渠等に下りき。
一四 此等はた寸毫の猶豫なき角の一吹を待てり。
一五 渠等(嘲りて)いふ、噫、上帝、C算の日の前に吾曹に吾曹の宣告を急げと。
一六 渠等のいふ所を忍べ、力を授かりしわが奴僕ダテの事を說け、渠は眞摯に(~に)歸依せし一人なれば。
一七 われ朝夕に山嶽をして渠と與にわれを頌せしめ、
一八 集へる禽鳥をもまた然らしめき。
一九 われ渠の王國を立て渠に知識と雄辯とを授けたり。
 (二人の)對敵の譚を知れりや。渠等上室の壁を上り
二一 ダテに至りしに、渠そを畏れき。渠等いへり、勿畏れそ、兩敵は吾曹なり、吾曹の一は他を害せり、故に眞理を以て吾曹を裁け、不正なる勿れ、吾曹を正路に導け。
二二 このわが兄弟は九十九羊を有せり、われは唯一牝羊を有せり、渠そをわが監理に委せよといひてわれを說服せりと。
二三 渠(ダテ)答へき、渠その事の外に爾の牝羊を要求せるは洵に爾を犯せり、事を共にするは多くは互に相犯す、唯信じて正しきを行ふは然らず、されど斯るは如何にきよと。ダテは(この譬諭によりて)わが渠を試むるを見たり。渠はその上帝に赦を請へり、身を伏して懺せり。
二四 故にわれ渠にこの過失を赦せり、そのわれに近づき(天堂に)優秀の地位を有するを許せり。
二五 噫、ダテ、洵にわれ爾を地上の君主に命ぜり、故に眞理を以て人を裁け、私欲に勿任せそ、そは爾をして~の道より迷はしむ、~の道より迷ひしはそのC算の日を忘れし爲に峻罰を受くべければ。
二六 われ天地とその閧フ萬物とを空しく創造らざりき。そは不信の說なり、されど(地獄の)火あれば不信のは不幸なり。
二七 われ信じて善行を修するを地上に惡を行ふと等しく遇すべきや。われ敬虔なるを不敬のと均しく見るべきや。
二八 わが音の聖典を爾に下せるは、(噫、麻訶末)、渠等のその表徵に甚深の意を注ぎて理解あるの警戒されんが爲なり。
二九 われダテにソロモンを與へき、如何に優れたる奴僕よ、渠は連りに(~に)歸依したれば。
 渠、夕に馬をてその三脚にて立ち一脚の端を地に着くるを見し時、いへり、
三一 洵にわれ地上の愛すべきものをわが上帝の記憶よりも愛して日沒に至れり、
三二 そをわれに引けと。(馬至るや)渠その脚と首とを斷てり。
三三 われまたソロモンを試みてその玉座に(僞の)身體を置けり。のち渠ひていへり、
三四 噫、上帝、われを赦せ、われにわが後何人も得ざる王國を授けよ、爾は(王國の)授なればと。
三五 われ風を渠に服せしめ、風はその命に應じてその欲する所に向ひ靜に吹けり。
三六 惡魔をも服せり、その中には造營に熟せる、(珠玉を探りて)に入る
三七 に繫がれしあり、
三八 (いへり)これわが賚賜なり、故に潤澤約た心に任せよと。
三九 渠われに近づくべく(天堂に)優秀なる地位を占むべし。
 わが奴僕ヨブを記せよ。渠その上帝を呼びていへり、洵に惡魔は困厄と苦痛とを以てわれを惱ませりと。
四一 (渠にいはれき)、脚を以て(地を)うてと。(斯くするや泉湧きぬ。渠にいはれき)これ(爾の)洗ひ飮むためなりと。
四二 われ渠にその一族とその外とをわが慈惠によりて復せり。理解あるものへのヘ戒なり。
四三 (われ渠にいへり)爾の手に一握の笞をとれ、そをもて(爾の妻を)打て、爾の誓を勿破りそと。洵にわれ渠の堅忍を認めき、
四四 如何に優秀の奴僕よ、連りにわれに歸依せる一人なれば。
四五 わが奴僕アブラハムをも亦、イサアクをも、ヤコブをも思へ、みな勇猛細心のなり。
四六 洵にわれ來世の記憶によりて充分の淨を渠等に加へき、
四七 渠等はわが眼中には正直善良なり。
四八 イスマイルをも、エリシァをも、ヅキフルをも、總べて善人なり。
四九 これヘ戒なり。洵に敬虔なるは歸すべき優秀の境あり、
 常住の樂園、その門は渠等に開かる。
五一 其處にはれば各種の飮食あり、
五二 その傍にはその目を引きそれと齡等しき(天堂の)處女あり。
五三 これ爾曹にC算の日に約せらる所なり。
五四 これ決して盡きざるわが供給なり。
五五 これ(正しきへの果報たるべし)。されど侵犯者には惡報あり、
五六 地獄あり、渠等は燒かるべく其處に投ぜらる、不幸なる床よ。
五七 これ渠等をして熱湯と穢濃と
五八 それに類せる他のものとを味はしむ。
五九 (誘惑にいはるべし)この群は爾曹と與に直に(地獄に)投ぜられん、渠等には歡迎なし、渠等は燒かるべく火に入るなればと。
 (誘惑されしは誘惑に)いふべし、洵に爾曹にも歡迎なからん、爾曹はそを吾曹に致せり、惡む可き境地(そは地獄なり)と。
六一 渠等いはん、噫、上帝、吾爾に(地獄の)火のこの責罰を齎らせるに苦痛を倍せよと。
六二 (不信)いふべし、吾曹が惡人の中に數へ
六三 吾曹が嘲笑せしを此處に見ざるは何故ぞ。吾曹の眼迷へるかと。
六四 洵にそは實なり、(地獄の)火の民の爭論。
六五 いへ、(麻訶末、偶像信に)、洵にわれは警戒のみ、其處に唯一萬能の~の外に~なし、
六六 天地とその閧フ萬物の主宰、偉大なる~、罪を赦す~の外にと。
六七 いへ、そは重き使命なり、
六八 爾曹の背くは。
六九 われ渠等が(人の創造に就きて)爭ふ時傲慢なる公に就きて知る所なし。
 --そはわが公の說ヘたるために唯われにのみ默示されたり--
七一 爾曹の上帝天使にいへり、洵にわれ泥土より人を創造らんとす、
七二 われそを創造りわが氣をそれに吹きし時爾曹下りてそを拜せよと。
七三 あらゆる天使は一齊にそを拜せり、
七四 傲慢にして不信となりしイブリスの外は。
七五 ~(渠に)いへり、噫、イブリス、わが手から創造りしものを爾の拜せざるは何ぞ。
七六 爾は虛傲自誇るか、爾は實に功を負へる一人かと。
七七 渠答へき、われは渠より優れり、爾は火よりわれを創造り土より渠を創造れりと。
七八 ~(渠に)いへり、爾去れさらば、爾は慈惠より逐はるべければ、
七九 わが呪咀は審判の日まで爾の上に在らんと。
 渠答へき、噫、上帝、さらばわれを復活の日まで猶豫せよと。
八一 渠(~)はいへり、洵に爾は猶豫さる一人たるべし、
八二 復活の日までと。
八三 渠(イブリス)いへり、爾の力をかけて(われは誓ふ)、われ必ず悉く渠等を誘惑すべし、
八四 その中特に擇ばれし爾の奴僕を除きてと。
八五 ~いへり、そは眞なり、われ眞を說く、われ必ず爾と爾に從ふものとを以て地獄を滿たさんと。
八六 いへ(默伽の衆に)、われ此(說ヘに)對して何等の報償をも爾曹に求めず、われは己に屬せざる所を取るならず。
八七 可蘭は萬物に對するヘ戒に外ならず。
八八 爾曹必ず久しからずしてその中にある所(の眞なる)を知らんと。
左度品【アル・サド】(1-88節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
品名は首端にサドの一字あるより生ず。此品にも亦往事數例を說けるが、こは麻訶末ヘに對抗する連盟不信の必滅をこれによりて證せんが爲なり。
時代
傳說にては、一-一の十節は孤列種がアブタリブに麻訶末の保護を止むべしと勸めし時に出づといへば、ヘジラ前八年(六一五年)なり。また一說にはアブタリブの死に臨める時とすれば、ヘジラ前三年(六二年)なり。
內容
不信の傲驕、豫言唯一~の排斥と連盟に對する挑戰(一-九)。
前代連盟の破滅と默伽嘲笑の裁斷(一一-一五)。
テの故事(一六-二八)。
ソロモンの故事(二九-三九)。
ヨブの故事(四-四四)。
其他の豫言の故事(四五-四八)。
天堂の光榮と地獄の不幸(四九-五八)。
偶像信と偶像との相(五九-六四)。
人類の創造とイブリスの譚(六五-八五)。
說ヘたる麻訶末、ヘ戒たる可蘭(八六-八八)。
左度品【アル・サド】(1-88節)の註釋(文字の解釈)
一 サド(S)の意の不明なるは他の卷首の單字の如し。或はシドクSidq(眞理)の略字とし、或はサダカSadaqa(渠眞を語る)の略字となす。可蘭によりての下には之に對する句を省略せりとの說あり。
五 主とは、アブタリブに勸說せる孤列種中の主要人物なり。
六 前のヘとは父傳來の宗ヘ、或は麻訶末以前に行はれし基督ヘとの說あり。
一一 刑柱は原語は唯柱にて天幕を張る棒なり。ファラオは四柱に刑人の手足を縛して之を刑する故にいふ。されど唯柱として抽象的に國礎の義と解するもあり。
二○ ダテはウリアUriahの妻を取りしかば、~は二天使を派して之を咎しなりといふ。或は此段は麻訶末往例を借りて自辯ぜるなりと爲す。
二八 此處にいふ聖典とは舊約の詩篇と解す可し。
 ソロモン駿馬千頭を得、之をて日暮に至り爲に晩禱を怠る、乃驚きて其馬を屠りて犧牲と爲し以て~に赦を請ふ。
三三 此傳說はタムドより出づ。ソロモン、シドンに克ちその王女ジラダJiradaを獲て寵す。ジラグ父を慕ひしかば、ソロモン惡魔をしてその形に變じてジラダを欺くソロモンに指環あり、聖名を彫りてその智力皆之に存す。王出づる每に之を妃アミナAminaに托するを例とす。
   惡魔サカルSakhar一日ソロモンの形體に變じてアミナより此指戒を奪ふて國王に化す。ソロモン奈何とも爲し得ず、姿を變じて食を市に乞ひ自給するもの四旬に及ぶ。惡魔去るに臨みて指戒を海?に投ず。後ソロモン之を魚腹に獲たり。よりて王國を復しサカルを執へ其頸に巨石を結びてチベリアスTiberias湖底に沈むといふ。
四一 洗浴の溫泉と飮用の冷泉と二泉ありともいふ。
四三 原文には唯一握とありて何なるをいはず。他を打つといへばと借に字を塡めしも、或は椰子樹の枝とし、また草とす。其妻の打たれし理由もまた明白ならず。或說に、惡魔その妻に若しわれを拜しなば前の昌安を復せんといひしにぞ、妻之をヨブに請ふ。
   ヨブ怒りて舊に復せば百を妻に課せんといふ。かくてガブリエル出現し靈泉出でしが、妻を打つに百を一握して一打し、以てその前誓を完くせしとぞ。
六九 公は天使と解すべし。久しからずしては死時、復活、またはイスラム捷利の日と解せらる。
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