「コーラン經」 位階品 第三十七 [ウス・サファト] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
位階品[ウス・サファト](1-182節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 位階の序ある(天使)によりて、
二 物を驅るによりて、
三 ヘ戒の爲に(聖典を)讀誦するによりて、
四 洵に爾曹の~は唯一なり、
五 天地の主宰なり、その閧フ萬物の君主たり、朝陽の上帝たり。
六 われ星辰を以て下天を飾れり。
七 其處に離畔の惡魔に對して護を置けり、
八 そが尊き公の議を聽き得ざるために。
九 渠等は四方より射退けられ、その爲には永續の苦痛を設けたれば、
 た偸み聽きて輝くを以て逐はるゝ者を除きては。
一一 されば渠等(默伽の衆)に問へ、渠等とわが創造りし天使と孰が强きと。われ確に渠等を硬土より創造れり。
一二 否、爾曹は(~の力と渠等の頑强とに)驚き、渠等は(そを悟さんとするを)嘲る。
一三 渠等は警戒さるも警戒せず、
一四 渠等は何等の表徵を見るもそを嘲りて、
一五 いふ、是明白なる幻術に外ならず、
一六 吾曹死して黃塵白骨と化せる後實に復活すべきか、
一七 吾曹の先も亦然るかと。
一八 答へよ、然りと、爾曹は貶しめらるべし。
一九 唯一吹角あり、渠等は見る可し(その復活するを、
 渠等いふべし、噫、吾曹、これ審判の日なり、
二一 爾曹が虛妄として拒みし(正邪の)識別の日なりと。
二二 不正を行ひしその伴、その禮拜せる
二三 ~の外にて渠等を地獄に導ける偶像とを集め、
二四 (~の審判の廷に)そを置け、渠等はC算さるべければ。
二五 爾曹何ぞ互に相防がざるや。
二六 否、この日渠等は(~判に)聽從せざる得をず、
二七 渠等は互に相近づきて相爭ふべし。
二八 (誘惑されしもの誘惑に)いふべし、洵に爾曹昌隆の前を以て吾曹に來らすやと。
二九 (誘惑)答へん、否、爾曹は眞の信ならず、吾曹は爾曹に對して(强制すべく)何等の力なし、唯爾曹は(自)侵犯なりき、
 故に吾曹の上帝の宣告は吾曹に對して正しく宣せられ、吾曹は(その報復を)味はざるを得ず、
三一 吾曹は爾曹を誘惑せり、而も吾曹また自誤れりと。
三二 故に渠等はに此日の責罰を分つ。
三三 斯くしてわれは惡人を待てり。
三四 何ぞや、(眞の)~の外に~なしと渠等にいへば渠等は傲然として
三五 いふ、吾曹、狂詩人の爲に吾曹の~祇を捨つべきかと。
三六 否とよ、渠は眞理を以て來れり(古の)使徒の證を帶べり。
三七 爾曹は必ず(地獄の)痛ましき苦痛を喫せん、
三八 爾曹は所業に應じての外酬はれざるべし。
三九 されど~の眞摯なる奴僕は
 (天堂に於て)ある食物(則)美果を得べし、
四一 光榮を受くべし、
四二 樂園に入りて
四三 相對せる臥にはり、
四四 杯をらさん、
四五 飮むに快きC泉を汲みて。
四六 そは理解を失はしめず酩酊せしめず。
四七 その傍には(天堂の)處女ありて(毛を以て)掩はれし(烏の)卵に似たる大なるKき眼を以て(その配偶の外を見る)渠等の視を制め、
四八 互に進みて相語る。
四九 その一はいはん、(われ世に在りし時)一人の知友ありき、
 常にいひき、爾は(復活の)眞を信ずる一人にや、
五一 吾曹死して死灰枯骨と化せるのちに必ず審判さるべきやと。
五二 時に渠(その友に)いはん、爾下を見ずやと。
五三 渠下を見ればその人を地獄の中央に見ん。
五四 渠いはん、~かけて、爾は殆んどわれを誤らんとしき、
五五 わが上帝の慈惠なからましかば、われ必ず(永久の苦惱に)付責せらる一人なりけんと。
五六 何とや、吾曹は吾曹の初の死の外に更に死すべきか
五七 吾曹は何等かの責罰を受くべきかと。
五八 洵にこれ大なる幸なり、
五九 斯く(幸を受けて)勞役をして勞役せしめよ。
 これと孰か善き、アルクムの木とは。
六一 洵にわれこの木を不正の爭試のために設けたり。
六二 そは地獄の奈落より生ひ、
六三 その果實は惡魔の頭に似たり。
六四 渠等(罪ある)はそを食ひて腹を滿たし、
六五 鹹き熱水を飮み、
六六 その後に地獄に歸るべし。
六七 渠等は先の迷ひ行けるを見
六八 急ぎてその足跡を踏めり、
六九 渠等の前なる古人は槪ね誤りたれば。
 故にわれ渠等にの警戒を派せり。
七一 見よ如何に渠等の末路の慘きかを
七二 ~の眞摯なる奴僕の外は。
七三 往昔ノアはわれにれり、われ惠を垂れて渠に聽けり。
七四 われ渠とその族とを大厄より救ひ、
七五 その子孫をして地上に生殘らしめ、
七六 後人をして渠を稱へしめき、
七七 あらゆる人類の中にノアに平和あれ。
七八 斯くしてわれは正しきに酬ふ、
七九 渠はわが奴僕の中の眞の信なればと(いひて)。
 然るのちにわれ他のを溺らしき。
八一 アブラハムも亦そのヘに屬し
八二 完き心を以てその上帝に來れり。
八三 渠その父とその民とにいへり、何をか爾曹は禮拜する。
八四 爾曹、(眞の)~よりも僞~を擇ぶか。
八五 さらば萬物の主宰に就きて爾曹の說や如何にと。
八六 渠仰ぎて星辰を觀ていへり、
八七 洵にわれ病めりと。
八八 渠等は背を向けて去れり。
八九 渠(アブラハム)竊に渠等の~祇にゆきて(嘲り)いへり、爾曹食はざるか(爾曹の前なる食を)。
 何とて爾曹語らざると。
九一 渠等に向ひ右手を以て打てり。
九二 その民急ぎ行けば
九三 渠いへり、爾曹自彫めるものを禮拜するや、
九四 ~は爾曹を創造り、また爾曹の造るものをも創造れるにと。
九五 渠等いへり、渠に薪を積めよ、渠を烈火に投ぜよと。
九六 渠等渠を謀りしも、われ渠等を敗れしめ(渠を救ひ)き。
九七 渠(アブラハム)いへり、洵にわれはわれを導く上帝にゆく。
九八 噫、上帝われに正しき子孫を與へよと。
九九 よりてわれ渠に順良なる一少年を授けき。
〇〇 その長じて渠と與に事に參るに至るや、
一 (アブラハム)いへり、噫わが兒よ、洵にわれは爾を犧牲に供せんとするを夢みたり、されば爾の說や如何にと。
二 渠答へき、噫わが父、爾の命ぜられし所を爲せ、若し~意あらば爾はわが堅忍を認めんと。
三 渠等身を(~意に)委ね(アブラハムはその手の)面を伏せしとき、
四 われ渠に叫べり、噫、アブラハム、
五 爾は幻夢を信ずるや、斯くしてわれは正しきに酬う、
六 洵にこれ明白なる試なりと。
七 われ渠に貴き犧牲を贖ひ、
八 後人をして斯くいはしめき、
九 アブラハム平和あれと。
一一 斯くしてわれ正しきに酬ひき
一一一 渠はわが忠誠なる奴僕(の一人)なれば。
一一二 われ渠に正しき豫言イサアクの吉報を與へき。
一一三 われ渠とイサアクとをせり。これ子孫には或は正しきあり、また明白に己の心を害ふものありき。
一一四 われまた嘗てモセとアアロンとに仁なりき。
一一五 渠等とその民とを大厄より救へり。
一一六 われ(埃及人に對して)渠等を助けて捷となせり。
一一七 われ渠等に法典を授け、
一一八 正道に導き
一一九 後人をして稱へしりき
一二 モセとアアロンとに平和あれと。
一二一 斯くしてわれ正しきに酬ひき、
一二二 渠等(二人)はわが忠誠なる奴僕なれば。
一二三 エリアスも亦わが遣せる一人なり。
一二四 渠その民にいへり、爾曹(~を)畏れずや。
一二五 バァルを禮拜して最優れし造物主を捨つるか、
一二六 爾曹の上帝にして爾曹の先の上帝たる~をと。
一二七 然るに渠等は欺瞞を以て渠を責めたり。
一二八 故に渠等は(永久の罰に)附責されたり、~の眞摯なる奴儀を除きて。
一二九 われ後人をしていはしめき、
一三 イリアシンに平和あれと。
一三一 斯くしてわれ正しきに酬ひなり、
一三二 渠はわが忠誠なる奴僕(の一人)なれば。
一三三 ロトも派遣されし(の一人)なり。
一三四 われ渠とその全家とを救へり、
一三五 後に殘るべきの中なる(その妻たる)老女を除きて。
一三六 然る後われその他を滅ぼせり。
一三七 爾曹(默伽の衆)そをぎりて、朝に
一三八 夕に旅中に於て、爾曹はそを思はざるにや。
一三九 ヨナも亦派遣されし(一人)なり。
一四 渠は載まれし船に遁れ、
一四一 籤を抽きて死に當り
一四二 魚に呑まれき、渠は責罰に値したれば。
一四三 若し渠~を頌むる(の一人)ならざりせば、
一四四 洵に復活の日まで魚腹に葬られたりけん。
一四五 われ渠を裸にて投げ上げ、渠は病めり。
一四六 われ瓜をその上に生ひしめき。
一四七 われ渠を一萬人若しくはその以上に致せり、
一四八 渠等は信ぜり。故にわれ渠等に一時の此生を享樂せしめき。
一四九 爾曹の上帝に女子ありや男子ありやを(默伽の衆に)問へ。
一五 われ女性の天使を創造りしか、渠等そを證するか。
一五一 渠等自僞妄の工夫をいはずや、
一五二 ~は子を生めりと。渠等實に虛言ならずや。
一五三 渠は女子を男子より重んぜりや。
一五四 爾曹は斯く斷ずる理由を有せず。
一五五 されば爾曹戒しめられずや。
一五六 さては爾曹(その言に對して)明證ありや。
一五七 爾曹の明典を出せ、爾曹の言眞ならば。
一五八 渠等は渠を妖の親族たらしむ、よりて妖も(斯る事を是認せる)渠等の付責さるべきを知る。---
一五九 渠等が拜せる所より~を遙に尊め、--
一六 ~の眞摯なる奴僕の外は。
一六一 加之ならず、爾曹と爾曹の禮拜する所とは、
一六二 ~に就きて何をも誘惑し得ざるべし、
一六三 地獄に於て燒かるべき(宿命の)の外は。
一六四 洵に吾曹は一として定位を有せざるなし、
一六五 (~の命によりて)自位階を定め、
一六六 ~の頌を爲す。
一六七 (不信は)いへり、
一六八 若し吾曹にして(古人の受けしが如き)~の默示の聖典を惠まれなば
一六九 吾曹必ず~の眞摯なる奴僕なりけんにと。
一七 されど(今可蘭の默示されしに)渠等そを信ぜず、今後渠等は知るべし(不信の報を)。
一七一 わが語は嘗て使徒たるわが奴僕に與へられたり、
一七二 渠等の(不信に對して)必ず助けらるべく
一七三 わが軍の必ず捷つべきために。
一七四 されば一時渠等を避けよ、
一七五 渠等(の遭ふ所の困厄)を見よ、渠等は(爾曹の未來の成功と昌榮とを)見るべければ。
一七六 さらば渠等はわが報復を急ぐにや。
一七七 洵にその渠等に下る時は警戒され(て無效なり)しには惡しき朝なり。
一七八 故に一時渠等を避けよ、
一七九 而して見よ、のち渠等も亦見るべし(爾曹の成功と渠等の責罰とを)。
一八 爾曹の上帝を頌めよ、渠等が禮拜する所よりも遙に尊き上帝を。
一八一 (その)の使徒に平和あれ。
一八二 萬物の主宰たる~を頌めよ。
位階品[ウス・サファト](1-182節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
天使に位階次序ありといふ卷端の字句より名づく。宣傳初期の聲調ありて幾多の誓詞を數ふべし。その故事を說くは麻詞末自古豫言に比して、以て默伽の衆を警しめ、不信の民の破滅と豫言の長く後世に頌揚されしとを例とす。復活と最後の審判との二大爭案たるは出の品と同じ。
時代
全部默伽默示たるには家の說一致せるも、何の年にあるやは憑據甚微なり。若し强ひて推臆すれば宣傳第四年、則、ヘジラ前第九年頃ならんといふ。
內容
~は唯一の豫言の誓(一-五)。
惡魔は天上の議に參らず(六-一)。
可蘭を左道とし復活を否認する默伽異ヘの暴慢と審判の日のその失望(一一-二一)。
偶像信と偶像との抗爭、その墮地獄、天堂と地獄の光景(二二-六六)。
先の覆轍を踏む默伽の異ヘ徒(六七-七二)。
ノアの往事(七三-八)。
アブラハムの往事(八一-一一三)。
セとアアロンとの往事(一一四-一二二)。
エリアスの往事(一二三-一三二)。
ロトの往事(一三三-一三八)。
ヨナの往事(一三九-一四八)。
~子の妄說(一四九-一六)。
誘惑と定位(一六一-一六六)。
不信の請赦の無(一六七-一七)。
往例によって豫言に不信に對する~の報復を待たしむ(一七一-一七九)。
~の頌揚と其豫言の平和(一八-一八二)。
位階品[ウス・サファト](1-182節)の註釋(文字の解釈)
一 位階次序を正すは普通に天使となせども、別說には信と爲す。或は天上にて~令に從ひて次序を正すといひ、または眞ヘの爲に戰ふ戰陣の序列の意なりといふ。一六五と對照すれぱ信徒にして天使にあらずとも見らる。
二 物を驅るは上下界にて物を驅逐マるにて、或は風雨雷電を驅るとなし、または惡魔を驅逐すると解す。
 アル•ザククムAl ZaqqunはタハマTahamaに生じ刺あリて果實は辛酸なリ。その名をかりて地獄の木に命じしなり。
六一 不正の爭試とは、不信は石すら薪となる焦熱地獄に樹木の生ずるなしと爭議するを指す。
三 面を伏せしは,面をも伏せて力を擬するの謂。
七 貴き犧牲は肥大の立派なる犧牲にて、豫言の代償なればいふ。その犧牲は牡羊となし、山羊となし、種の說なり。
一二三 エリアスEliasuは、イスラムヘ徒はアル•キルal Khidhrと同人なリとし、また第十八品の六四(の註を見よ)にある如くフィネアスと混同し、或はイドリスIdris エノックEnochと混淆す。希臘人のへリオポリスなる、里亞のパアルぺクBaalbecへその地のパルアBaalヘ徒をヘ化の爲に赴く。但し此地の古名はベクBeccなりしもバアルヘ盛行してバアルベクの稱起れりといふ。
一三 イリアシンIlyasinの解には諸說あリ。エリアスは亞剌比亞語にてイリアスIlyasなり、故にイリアスとその徙とを合せ複數にてイリアシンといふとの說。アルヤシンal Yasinのニ語の連續なり、エリアスはヤシンの一子なり、故にヤシン家の義なりとの說。イリヤシンとは麻訶末、可蘭、その他の聖典をいふとの說。されど最實らしき說は、イリヤシンもエリアス(イリアス)も同語異音にて、例へぱシナイ山をシニン山といふ類なり、唯調律の爲に斯くいへりとの說なり。
一三五 後に殘るといひしは妻なり、ロトの妻はソドム破滅の前に其他を去りしも麻訶末は知らざりしか、或は救はるゝ者の外の意にていひしか。
一四六 此處には瓜と譯せしも、或は無花果なりといひ、或はウヅMauzといひ、一種の蔓草といひ、一定せず。
一六一 或は一六一-一六六を天使の語とし、或は一六四-一四六を然りとし、或は之を麻訶末とその信徒の語とす。解釋區たり。
一七三 一七三の句はイスラムヘの捷利と爲すものと、默伽征服の豫言と爲すものとあれども、要するに痲訶末が往事故例よリ推して其ヘ派成功捷利の自信をいふなり。
Office Murakami