「コーラン經」 婆婆品 第三十四 [ウス・サバ] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
婆婆品[ウス・サバ](1-54節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 頌揚は天地にありとしあるの屬する~にあり、來世に於て~に在り、~は賢明叡智なれば。
二 ~は地に入り地より出づる、天より下り天に上るあらゆるを知る。~は仁慈にして赦すを好めり。
三 不信はいふ、(審判の)時は吾曹に來らざるべしと。答へよ、さなり、わが上帝によりてそは必ず爾曹に來るべし、隱れたる密を知るは~なり、天に於ても地に於ても一蟻の徵も~より免れず、巨細の別なく悉く(その宣命の)明典に在り。
四 よりて信じて正を行ひしに酬ひ宥赦と光榮ある食物とを授く。
五 されどわが表徵を無する者は痛峻の責罰を蒙るべし。
六 知識を受けしは爾の上帝より爾に默示せる聖典の眞理にして頌讚すべき光譽の道なるを知る。
七 然るに不信は互にいふ、爾曹悉く分散せる後に爾曹に新生を援くべしと豫言するを吾曹は爾曹に示すべきか、
八 渠は~に就きて虛妄を構へたり、さらずば狂せりと。されど未來を信ぜざるは責罰と迷謬とに陷るべし。
九 されば渠等はその前にその後に天に地にあるものを思はざるにや。われ欲せば地を裂きて渠等を呑ませ天を缺きて渠等に落ちしむべし。 洵に此處に(~に)歸依するへの表徵あり。
 われ嘗てダテに特眷を下していへり、噫、爾、山嶽、渠と呼應して(~の頌を)へよ、爾、禽鳥も亦(之に和鳴せよ)と。われ渠の爲にを和げていへり、爾子鎧を作れ、その小環を完成して工をしくせよ、洵にわれ爾の爲す所を見ると。
一一 われソロモンに風を(屬せり)。一月は朝に、また一月は夕に(吹かせき)。渠の爲に熔銅の泉を流れしめき。その上帝の意によりて妖の若干をその眼前に役せしめき、そのわが命に背きしをして地獄の火の苦痛を喫せしむべし。
一二 渠等は渠の欲するまに宮殿像形魚池に等しき大皿と壺とを作れり、(われいへり)、勞作せよダテの族、~に謝して、わが奴僕の謝する者ければ。
一三 われ渠(ソロモン)の死を宣せし時、その杖を嚼める地上の爬蟲の外渠等にその死を示すなかりき。その倒るや、妖は渠等にしてその密を知りたらんにはこの恥づべき勞役を續けざりしを悟れり。
一四 サバ(の子孫)は嘗てその居住に表徵を有せり、(則)左右の兩園なり。(斯く渠等にいはれき)、爾曹その上帝の食物を食ひて之に謝せよ、地は善く~は仁慈なりと。
一五 然るに渠等は(わが命ぜる所に)背きたれば、われ渠等にアルアラムの漲溢を生じその兩園をして酸果檉柳若干の小棗の園と化せり。
一六 これわがその忘恩に對する報償なり、忘恩に非ざれば誰か斯く報ひらるべき。
一七 われ渠等とわがせる城市との閧ノ互に相近く城市を置きその閧フ行旅を安からしめ、晝夜その閧フ行旅安全なれといへり。
一八 然るに渠等は、噫、上帝よ、吾曹の行程を遠からしめよといへり。渠等は自不正なりき。われ渠等を傳說の題目たらしめ、渠等を粉せり。洵に此處に堅忍謝恩の衆への表徵あり。
一九 イブリスは渠等に就きて正しく判せり、眞の信の一派の外渠等は渠に從へり。
 われ來世を信ずるをそを疑ふと識別し得るに非ざれば渠は渠等に對して何等の權威なし。爾曹の上帝はあらゆる事物を觀察せり。
二一 いへ(偶像信に)、爾曹が~の外に(~祇と)想ふ所にれ、渠等は天に於ても地に於ても一蟻の重きを爲さず、また(その創造と主宰とに)何等の參知を有せず、また何等の援助を爲さず。
二二 また~の許せるの外は~の前に何等の勸解を爲す能はず、されば渠等の心より畏怖の除去せらるや渠等互にいふべし、何をか爾曹の上帝はいひたると。渠等いふべし、眞理なり、~は高く且偉なればと。
二三 いへ、誰か爾曹の爲に天地より食を供する。答ふ、~と。吾曹は爾曹と與に眞の示ヘに從ふべし、さらずば明なる迷妄に墮ちん。
二四 いへ、爾曹は吾曹の爲せし所を問はれざるべく、また吾曹は爾曹の爲せる所に就きて問はれざるべしと。
二五 いへ、吾曹の上帝は(最後の日に)吾曹をともに會すべし、眞理を以て吾曹を裁くべし、渠は良く知れる判官たりと。
二六 爾曹が~伴と爲せるものをわれに示すとや。否、そは唯~なり、偉大にして賢明なる。
二七 われ爾を人閧ノ派せしは唯吉報の持の宣としてなり、然るに人槪ね悟らず。
二八 渠等は、爾の言眞ならば此威は何時ぞといふ。
二九 答へよ、爾曹が一時も猶豫されずまた急がれざるその日に爾曹に威ありと。
 不信はいふ、吾曹はこの可蘭をもまたその前(に默示されし所)のものをも決して信ぜるべしと。されど何時か不正のその上帝の前に置かるを爾曹は見能はんに、渠等は互に抗辯すべし。弱きは傲慢なるに、爾曹あらざらば洵に吾曹は眞の信たりけんにといはん。
三一 傲慢なるは弱きにいはん、(眞の)示ヘの爾曹に來れるのちに吾曹爾曹をそれより誘惑せりとや、否、爾曹は自罪を犯せるなりと。
三二 弱きは傲慢なるにいはん、否、晝夜(爾曹が吾曹を陷れんとしたる)姦謀を以て爾曹は吾曹の~を信ぜざること吾曹の他の~祇を~と同列に置かんことを吾曹に命ぜりと。斯くて渠等は(そを待てる)責罰を見たらんのちにその恨を隱すべし。われは信ぜざるの頭に扼を繫くべし、渠等はその所業に應ずるの外他に酬はるべきか。
三三 われある城市に送りし警告は、一人としてその富昌なる城民に、洵に吾曹は爾の派せるを信ぜずといはれざるなし。
三四 渠等(默伽の衆)も亦いふ、吾曹は(爾よりも)資家門に富めり、吾曹は(のちに)罰せられざるべしと。
三五 答へよ、洵にわが上帝はその欲する所に富昌を授けその欲する所に之を愛むべし、されど人多くは之を知らず。
三六 爾曹の富も爾曹の子孫も爾曹をわれに近づかしむるものならず、た信じて正しきを行ふのみその所業に對して二倍の報償を受け、安全に(天堂の)高處に在るべしと。
三七 されどわが表徵を無するは責罰に附せらるべし。
三八 いへ、洵にわが上帝はその奴僕の中の欲するに潤澤に食物を與へその欲するに之をすべし、爾曹の施與せる所は何ものたりとも~これを返すべし。~は食物の最良の供給なり。
三九 ある日に~は悉く渠等を會し、その時天使にいふべし、此等は爾曹を禮拜せしかと。
 (天使は)答へん、~は禁ず、爾は吾曹の恩主なり渠等のに非ず、渠等は惡魔を禮拜せり、多くは渠等を信ぜず。
四一 然るに今や爾曹は互に相利する能はずまた相害ふ能はずと。われ不正を行ひし者にいふべし、爾曹虛妄として拒みし(地獄の)火を喫せよと。
四二 わが明白なる表徵の渠等に讀まるや渠等(爾、麻訶末に就きて)いふ、爾曹をその先の禮拜せるところ(の~祇)より惑はさんとする此は人に外ならずと。渠等(可蘭に就きて)いふ、これ譚空言のみと。不信は眞理に就きていふ、これ明白に幻道左術なりと。
四三 されどわれ渠等に一聖典を授けず、また爾の前に一人の警告を派せざりき。
四四 渠等以前のものも(亦同じくその豫言を)虛妄を以て責めたり。されど此等はわが(以前のに)與へたりしところの(富と力とともに)十の一にだも達せず。而して虛妄を以てわが使徒を誹れり、わが報復は如何(に峻烈)なりしよ。
四五 いへ、洵にわれ一事を爾曹に告ぐ、爾曹は~の前に兩若しくば單獨にて立つ、而して眞摯に考察せよ、爾曹の友(麻訶末)に何等の狂妄なし、そは峻罰に先ちて爾曹に送られし警告に外ならず。
四六 いへ、われ(わが說ヘに就きて)爾曹に何等の報償を求めず、(與と不與と)そは爾曹の事なり、わが(期する)報償は唯~より來る、~は萬事の證なりと。
四七 いへ、洵にわが上帝は眞理を(その使徒に)下せり、密の知なりと。
四八 いへ、眞理は來れり、虛妄は失せたり再復らずと。
四九 いへ、若しわれ誤らば洵にわれわが心に逆ひてのみ誤る、されど若しわれ正しく導かばそはわが上帝の默示によれり、~は能く聽き(そをる者に)近ければ。
 爾曹見るを得ん、渠等(不信)の震怖して避くるに地なく近き處より取らるべきを。
五一 渠等いふ、吾曹渠を信ずと。されど如何に渠等は遠地よりそを得べきや、
五二 渠等はそを拒み遠地より信仰の不思議を讒謗せしに。
五三 渠等とその希ふ所との閧ノは妨碍あり、
五四 恰も嘗て渠等に類せるにありしが如く、渠等は疑ひて嘲りたればなり。
婆婆品[ウス・サバ](1-54節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
一四に亞剌比亞地のサバの民の運命を引きて孤列種への警戒としたれば名づく。
時代
默伽宣傳の早期に屬すといふの外時代を推定すべき根據なし。
內容
~の頌揚(一-二)。
不信は審判を免がれず(三-五)。
復活を拒み麻訶末を讒謗する孤列種の威(六-九)。
テ、ソロモンの~眷(一-一三)。
サバの運命(一四-二)。
偶像信と勸解(二一-二二)。
眞の信と不信との~判(二三-二六)。
警戒としての麻訶末(二七-二九)。
審判の日の偶像とその信との抗爭(三-三二)。
豫言を誹る默伽の民とその必罰(三三-三七)。
施與の果報(三八)。
天使と偶像信(三九-四一)。
豫言を虛妄とする默伽の民の處罰は先例の如し(四二四四)。
麻訶末の眞理の辨(四五-四九)。
不信恨遲し(五-五四)。
婆婆品[ウス・サバ](1-54節)の註釋(文字の解釈)
二 地に入るは降雨藏玉死屍等、地よリ出づるは草木禽獸鑛物湧の類、天より下るは天使聖典~誥雷雨、天に上るは天使人の功業の類。
六 知織を受けしは猶太ヘ徒。
 子鎧のことは第二十一の八を見よ。
一一 熔銅泉はエマンに在リ、月に三び噴出すといふ。大皿は能く一時に一皿より千人をして食せしむといひ、大壺はエマンの山より斫り出せしも大にして動かす能はずといふ。
一三 ソロモン、ヱルサレムの~廟を造營するに鬼~を役し、その死に臨みて、鬼~のそを知りて役を離れ怠らんを恐れて、~に死を知らざらしめんことをる。かくて死後杖によりて立ち生けるが若きもの一年、蟲杖をみて死屍れて事始めて知らるといふ。
一四 サバSabaはサナアSanaaか距る約三十。傳へいふ、力タンQahtanの子ヤラブYarabの子ヤシュハブYashhabの子をサパといふ。サバの後裔マリブMaribに居る、よりて名けてその地をサバといふと。但しムイアに據ればサパ族とはエマン人のことなリ。
五 アル•アラムA1 Aramの語に就きては說あるも、池塘の義ならむといふ。檉柳はタマリスク、小棗はロトツリ、またネブクNebukにて、所謂ラムヌス•ナペ力Rhamunus Nabecaなり。
一七 されし城市はエマン人の通商せる里亞の市なり。その距離を遠くするは、斯くして行旅の利uを加へんが爲なり。
一九 イブリス云はサパ族の事に就きてともいひ、然らずともいふ。後說ならば上とは別項たるべし。
四六 そは爾曹の事なりといふは、報償の與不與となす說の外に、わがヘを爾曹に說くも爾曹の取捨自由なりとの解あり。
五一 遠地云は信仰は現世にて受けらるべきに他の世にてはといふ意なリ。
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