「コーラン經」 連盟品 第三十三 [ウル・アーザブ] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
連盟品[ウル・アーザブ](1-73節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 噫、豫言~を畏れよ、不信とに勿從ひそ、洵に~は知りて且賢なり。
二 唯爾の上帝より爾に默示せる所に從へ、~は爾の所業を熟知すれば。
三 爾の信を~に置け、~は充分の保護なれば。
四 ~人の胸裡に二心を作らず。人はその妻を--爾曹が離婚せる或妻をその後爾曹の母として遇する--その(眞の)母となさず、人はその養子をその(眞の)子と爲さず。これ爾曹の口にいひし所なり。されど~は眞理を語る、~は(正しき)道に導く。
五 (斯る養子を)その(繼)父の子と呼べ、これ~の見る所にて更に正し(かるべし)。若し爾曹その父を知らずばヘに於て爾曹の同胞爾曹の侶伴たらしめよ。爾曹(この事にて)誤るともそは毫も爾曹の罪にあらざるべし、た爾曹の心に故意に企みしならずば。~は大度にして仁慈なり。
六 豫言は渠等自よりも眞の信には近し。その妻は渠等の母なり。血統の關係あるは相互に~典に因りて(その他の)眞の信ムハジリンよりも近し。爾曹の親戚に對する親切は皆聖典に錄さるべし。
七 われの豫言よりその約を受けたり、爾より(噫、麻訶末)ノアとアブラハムとモセとマリアの子耶蘇とより、
八 渠等よりは眞理を語るの眞實を驗し得る確約を受けたり、~は不信の爲には痛ましき痛苦を設けたり。
九 噫、眞の信よ、(ヘ敵の)軍爾曹に向ひし時爾曹に對する~眷を思へよ、われ渠等に一陣の風と爾曹の見ざる(天使の)軍兵とを送れり。~は爾曹の所業を見たり、
 渠等爾曹の上より爾曹の下より來りし時、(爾曹の)眼迷ひ心轉じ(種に)~を思ひし時。
一一 其處に信は試みられき、烈しき震怖を以て震ひき。
一二 僞善とその心の定まらざるとは、~とその使徒とは爾曹にた詐妄の約をなせりといひし時。
一三 渠等の一部、噫、ヤトリブの民、爾曹には(安全の)地なし、故に(家に)歸れといひし時。渠等の一部は豫言に(去らんことを)請ひて、洵に吾曹の家は防備なしといひし時。されどそは防備なきに非ず、その志は唯遁亡に在りき。
一四 されど(敵)その附近より入り渠等叛かんとせしときそを許せり、されど渠等は久しくその狀にあらざりき。
一五 渠等はその背を向けざることを前に~に約せり、その~との約は今後に徵さるべし。
一六 いへ、戰は爾曹を利せず、爾曹死を免れ殺を免れんには、(若し然らば)さらば爾曹は唯少時(現世に)享樂し得んのみと。
一七 いへ、誰か~に逆ひて爾曹を守り得る者ぞ、~にして爾曹にを與へ若しくはを授けんとするとき。~の外に渠等を保護し援助するあらずと。
一八 いへ、~は爾曹の中の誰か(他の使徒に從ふを)妨ぐる、誰かその同胞に吾曹に來れといふ、誰か唯少しく戰に參るなるかを旣に知れりと。
一九 そは貪によれり、渠等は畏怖に臨みては恰も頻死のの如く眼を轉して爾曹に(援助を求むるを見ん、而も畏怖去れば渠等は(鹵獲の)最良を貪りて毒舌を以て爾曹を罵るべし。此等は(眞に)信ぜず。故に~はその業に何等のuを生ぜず。こは~には易し。
 渠等は連盟は(圍を解きて)去らじと思へり、若し(他日)連盟至らば天幕に住める漠中の亞剌伯族の中に住みて爾曹に就きての新聞を問はんとす。假令渠等は(今)爾曹と與にありとも、渠等は多く戰はず。
二一 爾曹は~の使徒に於て、~と最後の日とを望み屢~を思ふの爲に、優れたる例を得ん。
二二 眞の信連盟軍を見ていへり、是~と其使徒とが吾曹に豫告せる所なり、~と其使徒とは眞を語れりと。是た渠等の信仰と敬聽とを加へたり。
二三 眞の信の中或ものは正しく其~に約せる所を爲せり、或はその誓を果たせり、また或は待てり、渠等は少しも變ぜず。
二四 ~はその忠誠の爲に正しく約を履みしに酬ひ得、僞善には其欲するまに罰するか、さなくば再渠等に向ひ得ん、~は赦を好みて仁慈なれば。
二五 ~は不信をその憤に逐ひ歸へせり、渠等は何等の利uを得ざりき。~は戰に於て信の充分なる呵護たり、~は强剛にして偉大なれば。
二六 ~は聖典を受けたるの中渠等(連盟)を助けしものを、その城壘より出でしめ、その心を畏怖に陷れき。爾曹は(その)一部を殺し一部を捕獲せり。
二七 ~は爾曹をしてその地上その家とその富と、爾曹の足未踏まざりし土地とを繼承せしめき、~は全能なれば。
二八 噫、豫言、爾の妻にいへ、爾曹この現世の生涯とその豪華とを欲せば來れ、われ爾曹の爲に美しき食を給し榮譽ある退散を許さむ、
二九 されど爾曹若し~とその使徒と來世とを求めなば洵に~は斯るに正しき業として大なる果報を設けたりと。
 噫、豫言の妻よ、爾曹明白なる惡を行はんには何人たりともその責罰は倍せられん、これ~には易し。
三一 されど爾曹の何人にまれ、~と其使徒とに柔順に正しきを行はんには、われそれに果報を倍せん、われその爲に(天堂に)光榮ある物資を備へたり。
三二 噫、豫言の妻よ、爾曹は他の婦人と同じからず。若し爾曹(~を)畏れなば、其語の慇懃に過ぎて心に(好の)病ある男子をして愛着の念を動かさしむる勿れ、た正しき言を爲せ。
三三 靜に爾曹の室に坐せ。無知なりし日の虛榮に馳られて身を露はす勿れ。定時の禱を行ひ施與を爲し、~と其使徒とに從へ、~は(爾曹が豫言の)內室たる爲に唯爾曹の虛榮を除き貞淨を完うせんと欲せり。
三四 爾曹の家中にて(可蘭に默示せる)~の表徵と知識とを誦ずるを記憶せよ、~は明昭にして(爾曹の行動を)熟知すれば。
三五 洵に兩性のムスリムと兩性の眞の信と、敬虔なる男子、敬虔なる婦人、眞實なる男子、眞實なる婦人、堅忍なる(男子)と堅忍なる(婦人)と、謙遜なる(男子)と謙遜なる(婦人)と、兩性の施與と、潔齋(の男子)と潔齋(の婦人)と、純潔(の男子)と純潔(の婦人)と、屡~を思ふ兩性のと、此等には~は赦罪と大果報とを備へたり。
三六 ~とその使徒とが一事を決宣せる時、自己の爲に(異れる)事を擇ぶの自由を有せんは、男女を論ぜず、眞の信のことならず。誰にても~とその使徒とに服從せざるは確に明白なる過失に陷れり。
三七 爾、~の惠を受けて爾にも亦愛せらるゝ者に向ひて、爾の妻を爾に保ち~を畏れよといひし時、爾、~の公にせんとする所を其胸裏にして人を恐れし時、爾曹の更に畏るべきは~なるに。ザイドが彼女につきて事を決(しその離婚を決)せる時、われそを爾に嫁せしめき、渠等その事を決すればその養子の妻と婚するを以て眞の信の罪とならしめず。~の命は行はるべきなり。
三八 ~の渠に許せる事に就きては何等の罪も豫言と歸せらるべくも)なし、從前のに對する~の命に相應せる--~の命は決定せる宣命なれば--
三九 ~の使命を齎し~を畏れ~の外何をも畏れざるに對せる~命に。~は充分なる決算なり。
 麻訶末は爾曹の中の何人の父にもあらず、唯~の使徒にしての豫言の璽なり。~は萬事を知れり。
四一 噫、眞の信よ、次の記憶を以て~を思へ、朝に夕に~の頌揚を爲せ。
四二 爾曹に仁慈なるは~なり(爾曹に代辨するは)天使なり、~は冥暗より爾曹を光明に導き得、~は眞の信に仁慈なり。
四三 渠等~に會ふその日の渠等の挨拶は平和なり。~は渠等の爲に光榮ある報酬を設けたり。
四四 噫、豫言、洵にわれ爾を證として、吉報の持として、威の宣傳として、
四五 その愉色と光明とによりて~への招致として派せり。
四六 故に眞の信に渠等は~より澤の賜與を受くべき吉報を齎らせ。
四七 不信と僞善とに勿從ひそ、その薄遇を勿憂ひそ、唯~に信ョせよ、~は充分の保護なり。
四八 噫、眞の信よ、爾曹信(たる婦人)に婚しそれに觸れずして離別する時は(その離婚の後)渠等に對して爾曹は何の條件をも負はず、た渠等に遺を爲して自由に光榮ある退散をなさしむ。
四九 噫、豫言、われ爾に爾の妻として爾がその粧資を與へしを許す、また~が爾に授けし捕囚の女奴を、また爾の伯叔父の女、爾の伯叔母の女を、その父側と母側とに論なく、爾と與に(默伽より)遁走せし、その他の信仰ある女にして自身を豫言に許し豫言も亦そを妻とせんと欲する時は。(是)眞の信の上に爾への特權なり。
 われわが渠等の妻に就きてまたその女奴につきて渠等に命ぜし所を知る、(爾に許せる特權を用ゆるを以て)之を爾の罪とせざるべし、~は大度にして仁慈なれば。
五一 爾はその欲するところを(爾の臥房に侍するを)止めその欲する所を徵し、前に拒みし所を後に愛するを得、そは爾に何の罪たらず。渠等の全然滿足して憂へざるを得るは更に易し、されど爾が渠等の各に與ふる所を以てよくスばし得ん。~は爾の心裡に在る所を知れり、~は知り且仁慈なれば。
五二 爾は今後(妻として他の)婦人を取るべからず、また假令その美スぶべきも渠等と(爾の)妻を易ふべからず、爾の權內に在る女奴の外は。~は萬事を照覽す。
五三 噫、眞の信よ、豫言の家內に勿入りそ、會食の外はその便宜の時を待たずして。唯招かれし時は入れ。食事終れば退散せよ、留りて懇話する勿れ、そは豫言を煩はせば。渠は爾曹に(退去を命ずるを)恥づ、されど~は眞に就きて恥ぢず。爾曹渠等(豫言の妻)に請ふ所あらば帳後より請へ。こは爾曹の心にも渠等の心にも潔からむ。~の使徒に何等の不安を與へず、また渠の後永久にその妻に婚せざるをよしとす。そは~の見る所にて憂ふべき事なれば。
五四 爾曹一事を露はし一事を隱すも洵に~は萬事を知れり。
五五 渠等の父、その子、その兄弟、その兄弟の子、その妹の子、その婦人、その奴隷に--覆面なくして--語るも渠等(豫言の妻)の罪にあらず。爾曹~を畏れよ、~は萬事の證なれば。
五六 洵に~とその天使とは豫言す。噫、眞の信よ、爾曹また渠をし恭しく之を待て。
五七 ~とその使徒とを犯す~は現世と來世とに呪ふべし、その爲には恥づべき責罰あり。
五八 故なくして男女の眞の信を迫害するは必ず讒謗と不正との罪を負はざるべからず。
五九 噫、豫言、爾の妻爾の女、眞の信の妻に(外出の時)被衣を掛くべきをいへ。こは渠等の(名ある婦人として)知られ(無禮を以て)輕蔑されざる爲によろし。~は大度にして仁慈なれば。
 洵に僞善その心の定まらざる默コ那に騷擾を作せるにして、屈從せざれば、われ必ず爾を渠等に向ひて起たしめんに、渠等は久しからずして其處に爾に近く居られじ、
六一 渠等の發見さる所に執へられ殺されん。
六二 こは~が渠等以前のものに就きての宣言なり、爾は~の宣言に何等の變化なきを見ん。
六三 人は(近づく最後の)時に就きて爾に向ふべし。答へよ、洵にその知識は唯~に在り、~は爾曹に告げざるべし、恐らく時は近からんと。
六四 洵に~は不信を呪へり、その爲に烈火を設けたり。
六五 其處に渠等は永久に殘るべし、渠等は一の恩主も保護も得る能はず。
六六 その面の(地獄の)火に焦げる日に渠等はいふ可し、噫、吾曹~に從ひその使徒に從ひたらましかばと。
六七 渠等いふべし、噫、上帝、洵に吾曹わが~祇とわが大人とに從へり、渠等は吾曹を正道より惑はしき。
六八 噫、上帝、吾曹の責罰の倍を渠等に與へよ、重き呪咀を以て渠等を呪へと。
六九 噫、眞の信よ、モセを迫害せるの如く勿ありそ。~は渠等が語りし嘲笑より渠を淨めき、渠は~る所にて重要の人たりき。
 噫、眞の信よ、~を畏れよ、善く導かれし語を語れ、
七一 ~は爾曹の爲に爾曹の語を正し得ん、爾曹に爾曹の罪を赦し得ん。何人にまれ~とその使徒とに從ふは大を享けん。
七二 われ天に地に山に信を提せり。渠等之を取るを拒みそを怖れき。されど人之を取れり、洵に渠は自不正に愚なりき。
七三 ~は僞善の男女偶像崇拜の男女を罰し得、~は男女の別なく眞の信に向ひ得、~は大度にして仁慈なり。
連盟品[ウル・アーザブ](1-73節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
題名の由來は、バニナヂルが族を連盟して默コ那を伐ち有名なる濠の戰にて擊退されし時の默示あればなり。乃圍城の時城民の行動敵の敗挫等を說けるは言を須たざるも、最しきは麻訶末のその義子ザイドイブンハリトの先妻ザイナブを娶りしに就きて豫言の妻室のことを規定せるに在り。
時代
濠の戰はヘジラ五年なり。ザイナブとの結婚も略同時なり。その他大抵其頃の事と言とに屬すれども、五二は麻訶末が最後にマイムナを娶りし後なればヘジラ七年後なるべく、五九の麻訶末の女のことはヘジラ八年にウムクルソム沒して唯ファチマ一人を殘したれば其頃の事とすべし。故に大體にてにヘジラ五年の默示と見るべし。
內容
麻訶末に異瑞に奔るの禁訓(一-三)。
離妻を母とし義子を子とするの禁戒(四-五)。
麻訶末の妻は信徒の母(六)。
豫言~との約(七-八)。
濠の戰の~眷(九-一一)。
默コ那の離叛の排斥と~怒(一二-一八)。
默コ那の僞善の隱謀の露現(一九-二)。
麻訶末は信徒の模範、濠の戰の信の竪忍(二一-二五)。
クライダ族の末路(二六-二七)。
麻訶末の妻へのヘ訓(二八-三四)。
男女の信(三五)。
麻訶末ザイナブの結婚の辨(三六-四)。
眞の信(四一-四三)。
麻訶末は吉報の證者説者(四四-四七)。
離婚法の變易(四八)。
婦人に關する麻訶末の特權、その妻の制限(四九-五二)。
と豫言の家庭(五三-五五)。
麻訶末の、そを犯すの呪阻(五六-五八)。
婦人被衣の命(五九)。
默コ那僞善の罰(六-六二)。
人審判の時を知らず(六三)。
不信の恐るべき運命(六四-六八)。
へ豫言の尊敬を勸む(六九-七一)。
の責任(七二-七三)。
連盟品[ウル・アーザブ](1-73節)の註釋(文字の解釈)
一 アブ•スフィアン等麻訶末と會見し、その宣ヘを抛ち舊來の~祇崇拜を諾んば迫害せずと勸めし時の言なり。
四 從來亞剌比亞の俗,その妻を離別するも外に出して他人の妻となすを欲せざれば母として家に居らしめ、また義(養)子は庶子と見なせり。麻訶末このニを改む。但し後は下のザイドの妻と婚せるに因る。~はニ心を作らずとの冠冒の語は假母義子を實の母と子とる能はざるをいふ。
六 豫言は現當二世の利を掌れば親姻よりも重しと爲すなリ。その妻は渠等の母なりは麻訶末の妻に限リて舊慣によりて他に嫁せざるをいふ。
九 ヘ敵の軍とは孤列種、ガトファンGhatfanナヂルNadhirクライダ—Quraidhaの猶太族と連盟して、一萬ニ千の軍を以て默コ那を圍めるをいふ。
 上より下よりとは、ガトファン軍が城東の高處に、孤列種軍が城西の谷地に陣せし故なリ。
一二 この言を爲せしものはムアッチブ•イブン•クシァイルMuattib Ibn Kushair
一三 ヤトリブYathribとは默コ那の古名なリ。或はいふヤムの玄孫ヤトリブの建置に係る故と。
二三 誓を果せりは殉道戰死を指す。
二六 聖典を受けながら敵を助けしとは猶太のクライダ族。
二八 此は麻訶末の妻の衣飾物資の要求に對していへるなり。
 責罰を倍するは、その地位平人に非ざる故にて、次のその果報を倍するも亦然り。
三六 麻訶末、ヤハシュJahashの女にしてその釋奴(義子)ザイドZaidの離別せる妻ザイナブZainab(ゼノビア)と婚せんとせしに、其兄アブダルラ等之を拒みし故なリ。
三七 ~の惠を受け爾にも愛せらるゝ者とはザイドなり。
五二 妻を易へるとは舊妻を去リて新妻を迎ふるを普通の解とす。然るに一說には亞剌比亞の偶像信の中には男子互に妻を易ふること俗あリ、是なリといふ。但し前說可ならん。
五九 被衣は西部亞細亞の婦人の俗たる頭より殆んど全身に被れる外衣。
七二 信仰に歸しながら、そのヘ法を完くし得ざる故に不正にして、その懈怠の結果を思はざる故に愚なリ。
Office Murakami