「コーラン經」 蜘蛛品 第二十九 [アル・アンクブト] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
蜘蛛品[アル・アンクブト](1-69節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 エリフ ラム ミム。人は吾曹信ずといふを以て足れりとすべきか、渠等は試みられざるか。
二 われ嘗て渠等以前のを試みたり、~は必ず眞摯なると虛妄とを知るべければ。
三 惡を行ひしわれ(それに報復する)を防ぐべしとなす乎。そは誤れり。
四 ~に會せんと希ふには~の定めし日必ず來るべし。~は聞き且知る。
五 (眞のヘの爲に)勵むはその心の(利uの)爲に勵むなり、~は(その)造物の何をも要せざれば。
六 信じて正しきを行ふにはわれ其惡事を除きその所業の最上の功コに應ずる果報を授けん。
七 われ人にその親に孝なれと命ぜり、されど渠等若し爾の毫も知らざるを以てわれと同列に推さんと說かば、渠等に勿從ひそ。われに爾管は歸すべし、われ爾曹の爲せし所を爾曹に示すべし。
八 信じて正を爲すはわれ必ず正と與に(天堂に)導かん。
九 吾曹~を信ずといふあり。されど(かる徒は)~の爲に苦しむや人の迫害を以て~の責罰となす。渠等若し爾曹の上帝より成功を得ばいふ、洵に吾曹は爾と與に在りと。~はその創造れるの胸裡を知らざらんや。
 洵に~は眞の信と僞善とを熟知せり。
一一 不信は信にいふ、吾曹に從へ、吾曹は爾曹の罪を負ふべしと。されば渠等はその罪の一部をだも負はざるべし、虛妄なれば。
一二 た渠等は必ず自己の罪とその他の罪とを負ふべし。渠等が欺きし所は復活の日に驗さるべし。
一三 われ昔ノアをその民に派せり、ノアは渠等の中に在ること一千年に五十年を缺きたり。渠等惡を行ひし時洪水は渠等を奪ひ去れり。
一四 されどわれ渠と方舟に在りしとを救へり。われ之をあらゆる生物に表徵となせり。
一五 われまたアブラハムを派してその民にいはしめき、~に仕へ~を畏れよ、爾曹理解せば爾曹の爲によからむ、
一六 爾曹~を外に唯偶像を禮拜し虛妄を構ふ。洵に爾曹が~の外は禮拜する所は爾曹の爲に何等の給與をも爲さす、故に爾曹の給與を~に求めよ、~に仕へ、~に謝せよ、~に爾曹は歸すべし、
一七 爾曹虛妄を以て(われを)誹るが如く、爾曹以前のの民も亦欺瞞を以て(その豫言を)責めき、されど豫言の職はた公の說ヘなりと。
一八 渠等見ずや、如何に~が生物を造りて後そを歸復せしを。洵にこは~に易し。
一九 いへ、世界を行きて如何に始~が生物を創造せしかを見よ、後來~は他のを創造すべし~は全能なればと。
 ~はその欲するを罰しその欲するを惠むべし。(復活の日)渠の前に爾曹は致さるべし、
二一 地に於ても天に於ても爾曹は(その手をれ)得ず、~の外に何等の恩主も保護もあらず。
二二 ~の表徵をも(復活の日に)~に會ふをも信ぜざるは望をわが慈惠に失はん、唯痛ましき責罰の在るあり。
二三 その民の答は渠を殺せ渠を燒けといふのみ。されど~は渠を火中に救へり。洵に此處に信ずるへの表徵ありき。
二四 アブラハムいへり、爾曹は現世にて爾曹の閧フ愛情を繫がんために~の外に偶像を拜せり、されど復活の日に爾曹の一は他を拒み一は他を呪ふべし、爾曹の居所は(地獄の)火たるべし、其處に爾曹を救ふ何もなからむと。
二五 ロトは渠を信ぜり。、(アブラハム)いへり、洵にわれは(わが民より)わが上帝に遁れたり、渠は偉大に賢明なればと。
二六 われ渠にイサアクとヤコブとを與へき、われその子孫に豫言と聖典とを授けぬ、われ渠に現世の報償を與へき、來世に於て渠は正(の一人)たるべし。
二七 またロトを(われ送れり)。渠その民にいへり、爾曹前代未有の穢染を爲すや、
二八 爾曹男子に馴れ公道にはり相會して惡を行ふやと。その民の答は、爾の言眞ならば吾曹に~の報復を下せといひしのみ。
二九 (ロト)いへり、噫、上帝、れたる民よりわれをれと。
 わが使吉報をアブラハムに齎すや渠等はいへり、吾曹必ずこの城市の民を滅ぼさん、不正を行ふなればと。
三一 (アブラハム)答へき、洵に其處にロトありと。渠等答へき、誰か其處に在るかは吾曹能く知れり、吾曹その妻を除きて必ず渠とその全家とを救はん、妻は後に殘る(の一人たる)べしと。
三二 わが使ロトに至るや、ロト爲に憂ひて手を伸ばせり。されど渠等はいひき、勿畏れそ、勿憂ひそ、吾曹は妻の外爾と爾の一族とを救はん、妻は殘るべき一人たれば、
三三 吾曹必ずこの民の上に天の報復を下さん、渠等は惡を爲したれば、
三四 而して吾曹其處に理解ある民に明白なる表徵を留めんと。
三五 マヂアン(の民)にはその同胞シュアイブを(われ送れり)。渠(渠等に)いへり、噫わが民、~に仕へ最後の日を待て、地上に惡を爲して勿犯しそと。
三六 されど渠等は虛妄を以て渠を責めき。よりて天風渠等を襲ひ、翌朝には渠等その住處になかりき。
三七 アド、タムド(をわが破滅せしことはその舊跡(の尙存せる)によりて能く爾曹に知らる。惡魔は渠等の爲にその業を設け渠等を(眞の)道より惑はしき、渠等は敏慧(の民)なりしも。
三八 而してカルンとファラオとハマンと(をわれ亦滅ばせり)。モセ明白なる表徵(奇蹟)を以て渠等に至りしに、渠等地上に暴慢ありしも終に(わが報復を)免れざりき。
三九 渠等の各をわれ其罪を以て破滅せり。その或には飇風を或ものには音を送り、或には大地を裂き、或をば水に溺らしたり。~は不正を以て渠等に臨まず、た渠等自心を持する不正なりき。
 ~の外に他の保護を仰ぐは譬へば自家を作る蜘蛛の如し。あらゆる棲家の最弱きものは蜘蛛の家なり、渠等の知るが如く。
四一 加之ならず~は渠等が~の外に禮拜するところを知る。~は偉大にして賢明なり。
四二 かる譬諭はわれ人の爲になせり、されど賢の外はそを解せず。
四三 ~は天地を眞に創造れり。洵に此處に眞の信への表徵あり。
四四 (可蘭の)聖典にて爾に默示せる所を說き禱を怠る勿れ、禱は人の穢染を除き過失を去ればなり。~の想起は確に最必要(なる義務)なり。~は爾曹の爲す所を知れり。
四五 最和の手段にあらざれば聖典を授りしと勿爭ひそ、その中の(爾曹に對して)迫害を爲すへの外は。いへ、吾曹は吾曹に下されし所への默示)を信じまた爾曹に下されし所をも信ず、吾曹の~と爾曹の~は一なり、その~に吾曹は歸依すと。
四六 斯くてわれ爾に(可蘭の)聖典を下せり。わが嘗て聖典を下せるはそを信ぜよ。此等(亞剌此亞人)の中にもそを信ずるあり。異端の外は何人もわが表徵を拒まず。
四七 之より前爾は何等の書を讀まず、爾の右手を以て書く能はず。されば反抗は疑へり。
四八 されどそは理解を得しの胸に於て明白なる表徵なり、不正の外は何人もわが表徵を拒まざれば。
四九 渠等いふ、其上帝より渠に表徵下らざれば(吾曹信ぜざるべし)と。答へよ、表徵は唯~の力に在り、われは公の說ヘのみと。
 われ渠等の爲に讀誦すべく爾に(可蘭の)聖典を下せしにて、渠等足らずや。洵に此處に信ずる民に對する慈惠あり示ヘあり。
五一 いへ、~はわれと爾曹との閧フ充分の證なり、
五二 渠は天地にあるところを知れり。偶像を信じて~を否むは滅ぶべしと。
五三 渠等は(爾がその上に下さんとせるを蔑如せる)責罰を急がんことを爾に迫るべし。(その猶豫の)定まれる時なくば責罰は必ず不意に渠等に來るべく、渠等は豫見し得ざらん。
五四 渠等報復の速ならんことを爾に逼る、されど地獄は必ず不信を圍繞せん。
五五 その日至らば責罰はその頭上よりその脚下より必ず不時に渠等を襲はん。~はいふべし、爾曹その業報を喫せよと。
五六 噫、信ぜるわが奴僕よ、洵にわが地は廣し、さればわれに仕へよ。
五七 各人は死を喫すべし、その後爾曹はわれに歸すべし。
五八 信じて正を行ひしをばわれ必ず天堂の高處に宿せしめん、河水はその下を流れ、渠等は永久に其處に在るべし。如何に優れたるよ正行の報償、
五九 堅忍にしてその上帝に信ョせるの報償は。
 如何に多數の動物はその食を得ざるや。渠等と爾曹とに食を給するは~なり。~は聞き且知る。
六一 洵に爾曹、誰か天地を創作り日月を運行せしむと渠等(默伽の衆)に問は、必ず~と答へん。さらば如何に渠等は欺けるか(他の~祇を認めて)。
六二 ~はその欲する奴僕には澤に物資を給し、また欲するに從ひて之を愛めり。~は萬事を知ればなり。
六三 洵に爾曹、誰か天より雨水を降らしよりて死地を復活すると渠等に問は、必ず~と答へん。いへ、~を稱へよと。されど渠等槪ね悟らざるなり。
六四 現世は唯玩物のみ遊のみ。唯(天堂なる)未來の宅地は實生涯なり、若し渠等知らんには。
六五 渠等船中にては眞摯に(眞の)ヘに歸して~を禱るも、一び陸に上れば、見よ、その偶像に歸る、
六六 わが渠等に與へしもの、渠等(現世にて)享樂し得るものに對して自忘恩を表せるなり、されど渠等は後當に知るべし(その應報を)。
六七 人の四隣を剽略せる時われ (默伽地方を)安全なる避處と爲せしを渠等見ざるや。さるに渠等は虛しきものを信じて~の善を認めざるや。
六八 ~に對して虛妄を構へ渠に下れる眞理を拒むより不正なるありや。其處に地獄に不信の去處なからんや。
六九 わが眞のヘを宣ぶる爲に最大の努力を爲すは何人にてもわれ之をわが道に導かん、~は正しきに與すればなり。
蜘蛛品[アル・アンクブト](1-69節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
〇節に蜘蛛網の譬諭あるを採りて名づく。此品に二特點とすべきは、甲は麻訶末が猶太聖典を公認せることにて、乙は奇蹟を逼まらるに對して、唯そは~に在り吾は唯說ヘたりとのみ辨せずして、可蘭を以て奇蹟とせることなり。
時代
ネルデケは一-一を默コ那默示となし、バドル戰後、否、オド戰後に出づとなす。四五をも默コ那時代と爲すもこは疑ふべし。其他は普通に默伽默示として認容さるるも、其年時の推定は頗困なり。し推定の事實として捕捉すべきは唯五六の迫害されし信の遁走を勸めし一句あるのみ、而も是麻訶末のヘジラに非ざればなり。
內容
信仰は試によりて證せらる(一-二)。
善行惡行の訓戒(三-八)。
僞善の排斥(九-一○)。
不信の僞約によりて他を欺くの罰(一一-一二)。
不信の爲に溺れしノアの敵(一三-一四)。
アブラハムと異端(一五-一七)。
偶像信に示す自然の~力(一八-一九)。
何人も遁れ~の審判(二-二二)。
火中に救はれしアブラハムと其偶像信へのヘ戒(二三-二四)。
ロトとアブラハム(二五-三四)。
ミヂアン、アド、タムド、カルン、ファラオ、ハマン等の運命(三五-三九)。
蛛蜘の網に似たる偶像信~は偶像を知り、眞の信のみ~業を知る(四-四三)。
麻訶末に讀經禱の命(四四)。
前代聖典と同じき可蘭は麻訶末の奇蹟(四五-五)。
~の麻訶末と異端との裁決(五一-五二)。
審判に徵さる異端の不用意(五三-五五)。
迫害されし信の遁走と正行の報賞(五六-五九)。
創造の~業(六-六三)。
現世は假幻(六四)。
不信の忘恩(六五-六六)。
亞剌比亞の偶像信の忘恩と~の信に對する果報(六七-六九)。
蜘蛛品[アル・アンクブト](1-69節)の註釋(文字の解釈)
一二 その他の罪とは他人を誘惑せる罪。
一三 ノアのことは第七の六-六五參照。
一四 之をとは、或は方舟なりといひ、或はノア一家を指すといふ。
一八 一八-二二の五はアブラハムの言とは見へず、アブラハムの譚を中斷せり。恐らく錯簡ならむ。二三は直に一七を受くるが如し。
二七 ロトのことは第七の八一-八五參照。
二八 公道にるは、或は行旅を剽略殺戮すとなし、或は道上にて淫事を行ふと解す。相會して惡をなすは勿論男色なり。
三九 風はソドム、音はアド、タムド、裂地はカルン、溺沒はノア、ファラオ等の天罰。
五六 わが地は廣しとは、世界廣ければヘの爲に一國に容れられずば他國に遁走すべしといふなり。 .
Office Murakami