「コーラン經」 蟻螘品 第二十七 [ウン・ナマル] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
蟻螘品[ウン・ナマル](1-95節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 タ、サド。これ可蘭の表徵にして明典の表徵なり。
二 眞の信のヘ示なり吉報なり、
三 正しく禱を行ひ施與を爲し固く來世を信ずるの。
四 來世を信ぜざるの爲にはわれ其業を設けたり。渠等は(復活の時失望して)驚駭すべし、
五 (現世にて)責罰を受け且來世にて最大の損失を蒙るなり。
六 爾實に賢にして智なる~の寶賜として可蘭を得たり。
七 モセその族人にいへり、洵にわれ火を見る、われその報を齎らさずば燃木を得來りて爾曹を溫めんと。
八 渠近きしとき聲ありて渠にいへり、火に在るとその邊にあるとをせよ、萬物の主宰たる~せよ。
九 噫、モセ、洵にわれは~なり偉大にして賢明なる。
 投げよ今爾の杖をと。渠その蛇の如く動くを見て退き走りて歸らず。(~いへり)噫、モセ、奸畏れそ、わが眼前にて畏怖の爲に左右されず、
一一 誤りてのち善を以て惡に代へしの外は、われは大度にして仁慈なれば。
一二 加之ならず、爾の手を胸に置け、害はれずして白からん。これファラオとその民とにする九個の表徵の中(の一)なり、渠等は惡人なればと。
一三 わが明白なる表渠等に來りし時渠等是明白に幻術なりといひて
一四 そを拒みき、その心中には確にそを(~よりと)知りながら不正と誇負とのために。されど見よ惡しきの最後の如何を。
一五 われ嘗てダテとソロモンとに知識を授けたり。渠等いへり、渠の忠誠なる奴僕の多數よりも吾曹を秀でしめし~を頌めよと。
一六 ソロモンはダテの繼嗣なり、いへり、噫、有衆、吾曹は烏語をヘへられき、あらゆるものを授けられき、洵に是顯なる慈惠なりと。
一七 妖、人、禽烏より成る軍はソロモンに集まり隊を分ちて進み、
一八 蟻の谷に至れり。一蟻いへり、噫、衆蟻、爾曹の巢に入れ、ソロモンとその軍とをして足下に爾曹を踏み進ましめよ、勿見られそと。
一九 (ソロモン)之を聞き笑ひていへり、噫、上帝、われをして爾がわれとわが兩親とに惠みし眷遇を謝せしめよ、正しきを行ひて爾をスばしめよ、爾の惠によりて(天堂なる)爾の正しき奴僕の中にわれを導けと。
 渠の禽鳥を見ていへり、何とて水鷄を見ざる、渠在らずや。
二一 われ渠を峻罰に處するかさては死に處せん、正しき辯疏なくんばと。
二二 久しからずして水鷄至りていへり、われ爾の見ざりし國を見たり、われサバより一新聞を以て至れり、
二三 われ(君王に要する)あらゆるものを得て莊嚴なる玉座に坐せる婦人の君臨せるを見き、
二四 女王と其民とが~の外に太陽を禮拜するを見き、惡魔は渠等の爲にその業を助け渠等を(眞の)道より誘惑せり、--故に渠等は正しく導かれず、--
二五 天地の閧ノせられしものを光明に照らし渠等の隱す所とその顯はす所とをせ知る~を禮拜せんを恐れて。
二六 ~よ、その外に~なし、莊嚴寶座の上帝と。
二七 (ソロモン)いへり、吾曹は爾の言の眞杏を見ざるべからず。
二八 わがこの詔を以て行き渠等に授け、退きて渠等の答ふる所を待てと。
二九 (サバの女王書を得て)いへり、噫、公、洵に光榮ある書來れり、
 そはソロモンよりなり、書中にいふ、大慈悲~の名に於て、
三一 われに勿逆ひそ、來りてわれに降り伏せよと。
三二 (女王)いへり、噫、公、わが爲に此事を諮れ、爾曹の商議を待ちてわれ何事をも爲さじと。
三三 (公)答へき、吾曹に强力あり、吾曹に勇武あり、唯命は爾に屬す、故に爾の命ぜんとする所を見んと。
三四 女王いへり、洵に王(武を用ひて)城市に入ればそを荒掠し其民を虐ぐ。今また斯らんとす。
三五 さればわれ渠等に遺を送り使の齎らし歸る情報を待たばやと。
三六 その(使)ソロモンに至るや王はいへり、爾曹われに富をるか。洵に~のわれに授けし所は爾曹に與へし所よりも善し、た爾曹は遺に於て光榮を爲す。
三七 歸れ、われ必ず軍を以て渠等に至らんに渠等抗し得ざらん、われ渠等を(城市より)逐ひて之を屈し之を服せんと。
三八 (ソロモン)いへり、噫、公、誰か能くわれに女王の玉座を致すぞ、渠等來り降らん前にと。
三九 恐るべき一幻答へき、われ能く之を致さん爾その座を起たざる前に。われそを能くし信ョさるべしと。
 聖典の知識ある一人いへり、われ轉瞬に之を能くせんと。ソロモン眼前に玉座を見ていへり、これわが上帝の眷遇なり、わが報恩と忘恩とを試すなり、謝恩のはその心に謝すべきも恩を知らざるは、洵にわが上帝は具足博施なりと。
四一 渠(その臣從に)いへり、その玉座を變じて女王をして勿知らしめそ、以てわれ女王の正しく導かるや否やを見んとすと。
四二 女王至りし時かくいへり、爾の玉座は之に似たりやと。女王答へき、同じきが如しと。われ前に吾曹に知識を與へたり、~に敬聽したり。
四三 されど女王が~の外に禮拜せし女王を(眞道より)誘へり、女王は信ぜざる民なれば。
四四 女王に宮に入れといへり。女王そを見し時そを大水と想ひ(裳を蹇げてらんとして)脚を露はせり。(ソロモン見て)いへり、洵にこれ璃を敷ける宮なりと。
四五 (時に女王)いへり、噫、上帝よ、洵にわれわが心を持する正しからざりき、われソロモンと與に萬物の主宰なる~に歸せむと。
四六 われまた嘗てタムド(族)にその同胞サリを送れり。(渠その民にいへり)爾曹~に仕へよと。然るに見よ、渠等は黨を分ちて相爭へり。
四七 渠いへり、噫、わが民、何とて爾曹善よりは惡に急ぐや。爾曹~の赦を請ひて慈惠を得ざれば(滅びなん)と。
四八 渠等答へき、吾曹爾より惡を豫知す、爾の徒よりと。渠(サリ)答へき、爾曹の豫知する惡は~に在り、されど爾曹は(昌榮利uの轉變を以て)試みらる民なりと。
四九 城中に土地を掠め正義なき九人あり。
 (相謀りて)いへり、互に~かけて誓はん、吾曹夜に乘じて渠(サリ)とその家族とを襲ひて報復の權あるに、吾曹一家の破滅を知らず眞に然りといはんと。
五一 渠等隱謀を策せり、されどわれ(之に對して)應策せり。渠等そを知らざりき。
五二 見よ、渠等の隱謀の結果如何を、われ全く渠等とその徒黨とを滅ぼせり、
五三 渠等の家は空し(く殘れり)その行ひし惡業の爲に。洵に是理解なき民に對する表徵なり。
五四 されどわれ信じで(~を)畏るゝ者を救へり。
五五 而してロトは其民にいへり、爾曹(その極惡を)知りながら惡を行ふか。
五六 婦人を捨て欲を男子に擅にせんとか。爾曹寔に無智の民なりと。
五七 されど渠等の答は、ロト一家を逐へ、渠等は自Cくするなればといふに外ならざりき。
五八 よりてわれ渠と其一家とを救へり、殘る可き(の一)たる其妻を除きて。
五九 われ渠等に石を雨せり、(無uに)警戒されし民に降りし雨の恐しかりしよ。
 いへ、~せよ、其擇べる其奴僕に平和あれ、~と渠等の禮拜せる所(の僞~)と孰か尊きと。
六一 天と地とを創造り爾曹の爲に天より雨を降し草木を生ぜしむるものの尊からずや。草木を生ぜしむるは爾曹の力にあらず。(眞の)~と(共力する)他の~祇ありや。洵に此等は迷へる民なり。
六二 地を定め其處に江河を流れしめ其處に不易の山嶽を置き雨水の閧ノ妨障を設くるもの、(の尊からずや)。(眞の)~と等しき(他)の~祇ありや。渠等多くはそを知らず。
六三 渠徵されし時その苦惱を聽き(渠等を惱ます)惡事を除き、地上に於て爾曹を(先の)繼嗣となせるもの(の尊からずや)。(眞の)~と(對比さるべき)他の~祇ありや。そを思ふの何ぞ夫れきや。
六四 陸の暗冥に爾曹を導き、その慈惠の先驅として風雲を驅る(より尊きありや)。(眞の~と)對比すべき~祇ありや。爾曹の推す所よりも遙に~は高し。
六五 生物を創造り、そを復活し爾曹に天地より食物を給する(よりも尊きありや)。(眞の)~とともに(之を爲す他の)~祇ありや。いへ、爾曹の言眞ならばその證を示せと。
六六 いへ、天に於ても地に在りても隱れしを知るは~ならで誰そ、
六七 渠等はその擧げらるべき時を知らずと。
六八 されど渠等の知識は稍來世に屬するも、なほそれに就きて確實ならず、さなり(その實在に就きては)盲ひたり。
六九 不信はいふ、吾曹と吾曹の先と旣に死灰となりて再起さるべきか。
 洵に吾曹は先と與に從來之を以て威されたり。こは古人の寓言のみと。
七一 いへ(渠等に)、世界を行きて惡人の末路如何なりしかを見よ、
七二 渠等の爲に勿欺きそ、渠等の謀りし所を勿憂ひそと。
七三 渠等いふ、この威は何時かあるべき、爾の言眞ならばと。
七四 いへ、爾曹の急がんとするもの一部は恐らく爾曹に逼れりと。
七五 洵に爾曹の~は人に大なり、されど渠等多くは恩を知らず。
七六 洵に爾の~は渠等の胸に藏す所と顯はせる所とを知る、
七七 天地の事明典に錄されざるは莫し。
七八 洵にこの可蘭はイスラエルの子孫にその爭點の最多くを宣明せり、
七九 これ實に眞の信の示ヘにして恩惠なり。
 爾曹の上帝はその確定の宣言を以て渠等の閧ノ爭議を決すべし。~は偉大にして賢明なり。
八一 故に爾は~に信ョせよ。爾は明白なる信仰にあれば。
八二 洵に爾は死をして聽かしめざるべし、聾をして爾のを聽かしめざるべし、渠等退き背くとき、
八三 また盲をしてその迷誤を離脫せしめざるべし。爾はわが表徵を信ずべきの外何人にも聽かしめず、信ずるは(全くわれに)敬聽するなり。
八四 宣告の渠等に下らんとするや、われ一獸を地に顯して渠等ならしむべし、洵に人は確にわが表徵を信ぜず。
八五 その(復活の)日にわれ各の民より虛妄を以てわが表徵を誹りしものを集むべし、渠等は相會するを禁ぜらるべし
八六 (渠等審判の場に)至るまで。~は(渠等に)いふべし、爾曹虛妄を以てわが表徵を誹れるか、爾曹そを解する智力なきに、爾曹の爲せしところは何ぞやと。
八七 宣告は渠等に下るべし、渠等不正を行ひたれば。渠等は語らざるべし、(その辯解の爲に。)
八八 わが休ましめん爲に夜を見せしめん爲に晝を與へしを渠等見ざるか。洵に此處に信ずるに對して表徵あり。
八九 その日角は鳴るべし、天に在るも地に在るも畏れ怖かむ、~が(それより除かんと)欲せるの外は、總べては恭しく~の前に至るべし。
 爾曹は山嶽を見てその固きを想はん、されどそは浮雲の如く消へ失せなむ。これ萬事を正しく行ふ~の業なり。~は爾曹の所業を熟知せり。
九一 所業正しきは何人もその前に報償を受くべし、その日の畏怖より安全なるべし、
九二 されど惡を行ひしは何人もその面を(地獄の)火に暴すべし。爾曹その所業の外の報償を得べきや。
九三 洵にわれはこの(默伽の)地方の上帝を禮拜しそを尊まんことを命ぜらる、萬物はそれに屬す。われムスリムたらんを命ぜらる、
九四 可蘭を讀誦せんを。(それによりて)導かるゝ者はその利uに尊かるべし。迷へるにいへ、洵にわれは(た)警戒たりと。
九五 いへ、~せよ、~は爾曹にその表徵を示すべし、爾曹はそを知るべし、爾曹の~は渠等の所業を等閑せずと。
蟻螘品[ウン・ナマル](1-95節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
一八-一九節に蟻の譚あるによりて名づく。
時代
麻訶末の默伽宣ヘの第八年頃ならむ。
內容
可蘭は信への吉報、不信は損失(二-五)。
可蘭は~の麻訶末に授くるところ(六)。
セとファラオ(七-一四)。
ソロモンとサバの女王(一五-四五)。
ムド族とサリ(四六-五四)。
ロト(五五-五九)。
~は僞~よりも尊し(六-六八)。
麻訶末の警戒を嘲れる不信の必罰と~惠の爲に惡人審判の猶豫(六九-七七)。
イスラエル族の爭議を決する可蘭(七八-八一)。
不信の盲(八二-八三)。
不信の審判宣告の表徵(八四-九二)。
麻訶末に~を拜しムスリムたり可蘭を讀誦すべきの命(九三-九四)。
~は眞の信に表徵を示すべし(九五)。
蟻螘品[ウン・ナマル](1-95節)の註釋(文字の解釈)
四 其業をとは不信の私慾に應適する事をとの義。
八 或は火に在る~四邊にあるは天使とし、或はモセと天使とし、或はこの靈地と四隣の民を指せりともなす。
一六 繼嗣は單に王位の繼承のみならず豫言としても其業を承くとの義なり。
一八 蟻の谷は何地にや明ならず。品名は此より起る。恐らく箴言第六章の惰よ蟻にゆき其爲す所を見て智慧を得よ云より來りしならん。
二一 亞剌比亞にてはサバSaba女王の名をバルキスBalquisといふ。その玉座は金銀にて造り珠玉を鏤め、或は長さ八十キュビト幅四十キキュビト高三十キュビトとなし、或は幅も高と同じく三十キュビトと爲す。
 大慈悲~の名に於て云はソロモン勅書の文なリ。
三九 恐るベき妖精とはイフリトIflitなりとし、或はダクワンDhaqwanまたはサクルSakhrとなせり。
 この人はソロモンの宰相パラキアBarachiaの子アサフAsaf。
四四 この宮はバルキスを迎ふるために新築し、床を張るに璃板を以てし床下に流水ありて魚類游泳せりと。列王紀略の第七章より出でしにや。女王の脚には驢脚の如く毛生ひたりとぞ。
八四 この獸をアル•ヤスサal Jasusa(間牒)といふ、その出現は最後審判の日の近づく表徵なりとぞ。
Office Murakami