「コーラン經」 豫言者品 第二十一 [ウル・アㇺバヤ] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文の漢字・ルビ・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
豫言者品[ウル・アㇺバヤ](1-112節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 渠等の決算は(默伽の)衆に近づけり、然るに渠等は措きて顧みず。
二 近く(可蘭に)默示されし上帝より渠等に對するヘ戒は一として渠等の聞きて嘲笑せざる莫し。
三 渠等の心は享樂に醉へり。不正を行ふ渠等は私に相語るらく、渠(麻訶末)も亦爾曹の如く人ならずや。されば爾曹明にその幻術なるを知りてそれに聽くべきやと。
四 いへ、わが上帝は天に地に語らる何ごとをも知れり、聞き且知るは渠なりと。
五 然るに渠等はいふ、(可蘭は)夢中の語なり、否、渠の僞作なり、否、渠は詩人なり、故に渠をして何等かの奇蹟を以て吾曹に至らしめよ、往昔の豫言の如くと。
六 渠等の前のわが滅却せし城市は一も(奇蹟を)信ぜざりき、されば此徒も亦そを信ずべきや。
七 わが(使徒として)送れるは一人として(わが意を)默示せる人に外ならず。爾曹知らずば聖典に通ぜるに問へ。
八 われ渠等に食はずして生くる體を授けず、渠等は不死にあらず。
九 たわれ善を渠等の約とせり、故にわれ渠等とわが欲するとを救ひ無法の侵犯を破滅せり。
 今われ爾曹に(可蘭の)聖典を下せり、(噫、孤列種、)その中に爾曹のヘ戒あり、爾曹理解せずや。
一一 われ如何に多くの不敬なる城市を破却して他の民を之に代らしめしか。
一二 わが峻烈なる報復を感ずるや渠等は速に城市を遁れき。
一三 (天使嘲りていへり)、勿走りそ、爾曹の享樂の地爾曹の居住に歸れ、恐らく爾曹問はるべしと。
一四 渠等は、吾曹の不幸よ、洵に吾曹は不正なりきといへり。
一五 この渠等の歎はわれ渠等をらるゝ穀物の如くならしめ全滅せしめしまで已まざりき。
一六 われ天地とその閧フ萬物を娛樂の爲に創作らざりき。
一七 われ娛樂を得んと欲しなば必ずそを自得たりけむ、そのことわが所願ならば。
一八 されどわれ眞理を以て虛僞に對し、そを壓倒すべし、見よそは消失せざるを得ず。~につきて不敬の言を爲す爾曹は不幸なり。
一九 天と地とにありと在るものは~に屬す、されば其前に在る(天使)は其奉公を怠り得ず、また倦怠し得ず。
 渠等は夜絶えず~を頌む。
二一 渠等は地上より~祇をとらんか。渠等は死を甦らし得るか。
二二 若し天と地とに~の外に~あらば共に必ず滅ぶべし。されど渠等の~につきていふ所よりも遙に上に寶座の上帝を崇めよ。
二三 ~の爲すべき所に就きては審問なし、ただ渠等の上に在り。
二四 渠等~の外に~祇を立つるか。いへ、その證を示せ。これ當代に於ても過去に於ても戒しむる所なり、然るに渠等多くは眞理を知らずしてそれに背く。
二五 わが爾曹の前に送りし使徒には一人として、わが外に~なし故にわれに仕へよと默示せざるはなかりき。
二六 渠等いふ、慈悲~には子女あり(天使は~の女なり)と。~は禁ず。渠等は~の名譽ある仕僕なり、
二七 渠等は~の語るまでは語らず、~の命ずる所を行ふ。
二八 ~は渠等の前にあり渠等の後にあるところを知る、渠等は何事にも容嘴せず、
二九 ~をスばすべきの外は。渠等は~を恐れて怖く。
 渠等の何れにもあれ、われは~の外の~なりといふは、われ地獄を以て酬ゆべし、これわが不正に報ずる所以なり。
三一 されば不信は天地の固かりしをわれそを粉して水より萬物を創作りしを知らずや。故に渠等は信ぜざるや。
三二 われ地上に山岳を置きて動かしめず、われ其閧ノ廣き路を開きて渠等(の行旅)に便し、
三三 天を屋として能く支持せしむ。さるに渠等は(その~業なるを思はず)其表徵より背き去る。
三四 夜とと太陽と太陰とを創作り、あらゆる天體を運行せしむるは~なり。
三五 われ爾曹の前の何人にも(現世に於て永久の)不滅を許さりき、されば爾曹死するに渠等不死なるべきや。
三六 各人は死を喫すべし、われ爾曹に試として善と惡とを以て證すべし、爾曹われに歸るべし。
三七 不信爾を見る時た嘲笑を以て爾を迎ふべし、これ爾曹の~祇をか(といひて)。されど渠等自却りて(それに)說く所の慈悲~を信ぜず。
三八 人は性急に創作られたり。今後われ爾曹にわが表徵を示すべきに、爾曹勿急ぎぞ。
三九 渠等いふ、この威は何時ぞ、爾の言果して眞ならばと。
 不信は唯その時その面よりその背より(地獄の)火を拂ひ得ず渠等は救はれ得ざるを知らん(には渠等はそを急がじ)。
四一 否、そは急に渠等に至りて渠等を驚駭せしめんに、渠等はそを避し得ず猶豫し得ざらん。
四二 爾の前の使徒は嘲笑されたり、されど其嘲笑せし所(の責罰)は却りて嘲笑せるの上に落ちたり。
四三 いへ(嘲笑に)、誰か夜にに慈悲~より爾曹を救ひ得べきと。さるに渠等は全然その上帝を遺却せり。
四四 わが外に渠等を救ひ得る~祇渠等にありや。渠等は自救ひ得ず、またその友によりてわれに對して援け得られず。
四五 されどわれ斯る徒とその宗をして生命の續くかぎり(世閧フ昌榮を)享樂せしめき。渠等知らずや、わが(不信の)國土に臨みてその境を狹めしを。されば渠等は征服たるべきか。
四六 いへ、われ唯爾に(~の)默示を說くと。されど聾は(爾の)言を聞かざるべし、その渠等にかる每に。
四七 而も少しにても爾の上帝の責罰渠等に觸れなば、渠等必ずいはむ、吾曹の不幸よ、洵に吾曹は不正なりきと。
四八 われ復活の日の爲に公正なる秤衡を備へん、何人も決して侵害されざらん、假令芥子粒大の功罪と雖もわれそを公にすべし、われに充分の算あり。
四九 われ嘗てモセとアアロンとに(善惡)差別の法を授け敬虔に光明とヘ戒とを授けき、
 私に渠等の上帝を畏れ(審判の)時を恐れし者に。
五一 この聖典も亦わが下せるされしヘ戒なり。さるを爾曹之を拒む可きか。
五二 われ嘗てアブラハムに正しきヘ示を授けき、われ渠(の默示に價する)を知れり。
五三 渠その父とその民とに向ひ、爾曹の斯く熱誠に歸依する偶像は何ぞと問ひしに、
五四 渠等、こはわが先の禮拜する所なりと答へき。
五五 洵に爾曹も爾曹の先もともに誤れりと渠いへり。
五六 渠等いへり、爾は吾曹に眞理を語るか或はかと。
五七 渠いへり、洵に爾曹の上帝は天地の主宰なり、そを創造りしなり、われは其證を有てる一人なり。
五八 ~かけてわれ爾曹の~祇を謀るべし、爾曹そを退きて背を向けしのちにと。
五九 (人去りしのも渠~廟に赴けり、)渠はあらゆる偶像を燒きて唯その最大なるを剩しき、渠等をしてそを恥しめしめんとて。
 渠等(歸りて之を見るや)いへり、わが~祇を斯く爲せしは誰そ、必ず不敬の人たらんと。
六一 (或)答へき、吾曹一少年のそを罵るを聞けり、そはアブラハムといひきと。
六二 渠等いへり、さらば民衆の前に渠を引け、渠等證を立て得んと。
六三 (渠引かるや)渠等いへり、吾曹の~祇を斯くせしは爾か、アブラハムと。
六四 答へき、否、其最大なるなり、それに問へ、~祇能く語らばと。
六五 渠等退きて互に語れり、洵に爾曹は不敬なりと。
六六 のち渠等以前の頑迷に復りていへり、洵に爾曹は此等の語らざるを知れりと。
六七 (アブラハム)答へき、さるに爾曹、終に爾曹をuせず爾曹を害し得ざる~の外に禮拜するか。鳴呼、爾曹~の外に何を禮拜するよ。爾曹は理解せざるか。
六八 渠等いへり、渠を燒きて爾曹の~祇の爲に報復せよ、爾曹そを爲さばと。
六九 (アブラハム火中に投ぜられし時)われいへり、噫、火よ、冷なれ、アブラハムの爲に安全あれと。
 渠等はアブラハムを謀らんとせり、されどわれ渠等を失敗せしめき。
七一 われ渠とロトとをあらゆるものゝ祝されし國土に安全に導きぬ。
七二 われ更に渠にイサアクとヤコブとを授けたり。
七三 われまた渠等をヘの典型と爲し渠等をしてわが命によりて他を導かしめき、われ渠等に善行を奬め禱と施與とを勸めき、渠等われに仕へぬ。
七四 われロトに智と識とを授け、われ渠を穢し罪を行へる城市より救へり、其民は惡く淫なれば。
七五 われ渠をわが仁慈に導けり、渠正しければ。
七六 昔ノアの(その民の破滅の爲に)りし時、われ渠を聞き渠と渠の族とを危急より救へり、
七七 われ虛妄を以てわが表徵を誹るより渠を保護せり、渠等は惡人なればわれ悉く之を溺らしぬ。
七八 ダテとソロモンとが牧なくして夜羊の飼はれし野に就きて裁斷せし時、われ其裁斷を證しその理解をソロモンに授けき。總べて渠等にわれ智と識とを授けき。
七九 われ山岳をしてダテと與にわれを頌めしめ、鳥をも然せしめき。
 われ渠に爾曹の爲に子鎧を作るの法をヘへ、爾曹を戰に保護せしめき、故に爾曹感謝すべきか。
八一 ソロモンにわれ强風を與へ、其命にてわがせる國土にそを吹かしむ、われ萬事を知れり。
八二 われ又惡魔を之に屬し渠の爲に(寶玉を得るため)ましめまた其他の業を爲さしめ、われそを監せり。
八三 ヨブその上帝に向ひて呼べり、洵に惡魔はわれを窘む、されど爾は仁慈を垂るゝ者の最仁なりと。
八四 われ渠に聽きそれに憑きし惡魔より救ひてその家族に復し、また他のをも救へり、(~に)仕ふるへのヘ戒としてわが慈惠によりて。
八五 イスマイルとイドリスとヅルキフルと。これ皆堅忍の人なり。
八六 われ渠等を、わが慈惠に導けり、正行の徒なれば。
八七 ヅルヌンは怒りて發し、わがその上に力なきを想ひ、暗中にて叫びいへり、爾の外に~なし、爾を頌せん、洵にわれ不正の一人たりきと。
八八 よりてわれ渠に聽き渠の苦を救へり、そはわが眞の信を救ふ所以なれば。
八九 ザカリアス上帝にれり、われをして子なからしめそ、爾は最良の繼嗣なりと。
 われ渠に聽きてヨハネを授け、その妻をして渠の爲に生ましめき。此等は善行に秀で愛と畏とを以てわれに禱りわが前に謙遜なり。
九一 童貞を保ちし女には、わが靈の氣を移し、渠女とその所生の兒とをあらゆる生物の爲に表徵となせり。
九二 洵にこの爾曹のヘは一のヘ法なり、われ爾曹の上帝たり、故にわれに仕へよ。
九三 然るに渠等(猶太基督ヘ徒)はそのヘに派を分てり、渠等は總べてわが前に出づべし。
九四 眞の信にして善行を修むるにはその努力に對して報償を拒まることなし、われ必ずそを渠の爲に錄すべし。
九五 犯しき禁制はわが破却すべき各城市の上に在り、渠等は(此世に)歸らざるべし、
九六 ゴグとマゴグとが渠等の爲に道を開き、渠等が各高き丘上より集まりて
九七 或約束の結ばれしまで。見よ、異端は眼をりていふべし、吾曹の不幸よ、吾曹は嘗て此日を思はざりき、然り、吾曹は惡人なりきと。
九八 洵に爾曹と爾曹の~の外に禮拜せし偶像とはともに(薪材として)地獄に投ぜらるべし、爾曹は其處に陷るべし。
九九 此等眞に~ならば其處に墮ちざるべきなり。而して渠等は永久に其處に在るべし。
〇〇 其處に渠等は(苦痛の爲に)呻吟すべし、(そを慰むべき)何ものをも聞かざるべし。
一 わが最優れたる(天堂の)報償を豫定せるは其處より遠く移さるべし、
二 毫もその音を聞かず、その心魂の欲する幸を永久に享くべし。
三 最大の畏怖も渠等を累はさず、の天使は、これ爾曹の約されし爾曹の日なりといふべし。
四 この日われ天を捲き上ぐべし(天使アルジジルが各人の所業を錄せる)簿を捲くが如くに。われ(烏有より)最初の生物を創造りしが如く、(復活の日に)またそを再創すべし。これわが(果すべき)約なり、われ必ずそを實行すべし。
五 今われ法典の後にわが美歌にわが正しき奴僕の世界を繼承すべきを錄せり。
六 (~に)仕ふる民の救濟の充分なる方法は洵に此書にあり。
七 (噫、麻訶末)、われ爾を下すは萬物に對する慈惠に外ならず。
八 いへ、われに默示されしは、爾曹の~は唯一の~なり故に爾曹敬聽すべきかといふに外ならず。
九 然るに渠等(唯一~の懺に)背かばいへ、われ總べて爾曹に同じく戰を宣す、されど遠きと近きと爾曹の孰か威するべきやはわれ知らず。
一一 洵に~は公然語る所を知り、また爾曹の私に語る所をも知れり。
一一一 われはその猶豫の爾曹の試たらざるかを知らず、爾曹は一時(現世の昌榮を)享樂し得べし。
一一二 いへ、わが上帝よ、爾眞を以て判せよ。吾曹の上帝は爾曹のいふ所(の讒謗)に對してその援助を求むべき慈悲~なりと。
豫言者品[ウル・アㇺバヤ](1-112節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
多く古來の豫言の事を說けばこの題名あり。殊に豫言の迫害處罰をいへるは孤列種の麻訶末に對する當時頗る急なりしを推想すべし。譚中の要點は~の惠の豫言に在りてそをヘ敵の迫害より救ひ且其敵に報復せる點に在り。アブラハムの事を說ける他よりも詳密なるは麻訶末が自ら之に比せるなり。
時代
默示の時代は默伽宣ヘの末期に屬し、宣ヘ第九年のものと推定さる。
內容
孤列種の審判近し(一-四)。
豫言も人なり、奇蹟を要せず(五-一)。
不信の都市嘲笑の民の滅亡(一一-一五)。
~は娛樂の爲めにせず(一六-一八)。
天使は~に仕ふ、自禮拜されず(一九-二三)。
唯一~を說く(二四-二五)。
~と天使との關係(二六-三)。
~の業は其~たる證(三一-三四)。
~の外に不滅のなし(三五-三六)。
默伽の民麻訶末を嘲る(三七)。
人は~罰を急ぎ~罰は不時に下る(三八-四一)。
古の使徒を嘲りしの運命(四二-四五)。
~の警戒を聞かざる聾(四六-四七)。
~裁の至公(四八)。
默示をうけしモセ、アアロン(四九-五一)。
偶像燒毁の罪より救はれしアブラハムの譚(五二-七三)。
ソドムより救はれしロト(七四-七五)。
洪水より救はれしノア(七六-七七)。
テ、ソロモンの智(七八-八二)。
より救はれしヨブ(八三-八四)。
この他~惠をうけたる豫言(八五-八八)。
願のありしザカリア(八九-九)。
マリア(九一)。
猶太基督ヘの分派(九二-九三)。
必ず報償さるべき信仰(九四)。
墮地獄の偶像信(九五-一〇〇)。
正しきの果報(一一-一四)。
正しき世界を承く(一五-一六)。
麻訶末は警戒(一七-一九)。
異端の內心を~知れり(一一-一一一)。
~は豫言に惠を垂る(一一二)。
豫言者品[ウル・アㇺバヤ](1-112節)の註釋(文字の解釈)
七一 あらゆろもの祝福されし國土とはパレスチナなり。八一にあろも亦然り。
七九 ダ~を頌むるや山岳爲に動き禽鳥また歌ふといふことあり。
八一 傳へいふ、聖き名を刻めるソロモンの璽はあらゆる自然カを左右し、其玉座は欲するがまに風に駕して四方に飛行し、王は能く妖精を驅使し禽獸の語を解すと。
八五 イドリスの事は第十九品の五七を見よ。ヅルキフルDhulflは何人なりや詳ならず。エリアスとなし、ヨシュアとなし、ザカリアスと爲し、里亞に住みしヨブの子となす。或はエゼキルも亞剌比亞にてキフイルといへば此人ならんともいふ。
八七 ヅルヌンDhulnunは魚にまれし義にてヨナのことなり。暗中は魚腹をいふ。
九一 童貞を保ちし女とは聖母マリアを指す。
Office Murakami