「コーラン經」 瑪利亞母品 第十九 [アル・マリアム] 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文・解題・註釋の漢字・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
瑪利亞母品[アル・マリアム](1-98節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 カフ ハ ヤ アイン サド。爾曹の上帝の其僕ザカリアスへの慈惠の記念。
二 其時渠私に上帝にりて
三 いへり、噫、上帝、洵にわが骨は弱くわが頭は白し、
四 われ爾にりて未曾て驗なきことなし、噫、上帝よ。
五 されど今われわが後を繼ぐべき姪を恐る、わが妻子なければ。よりてわれに爾よりわが肉身を分ちて繼嗣を授けよ、
六 わが後繼となり、ヤコブの家の後繼たるために。噫、上帝よ、享け得るところを許せと。
七 (天使答えき)、噫、ザカリアス、洵にわれ爾に一子の吉報を齎す、そをヨハネと名づくべし。
八 われ其前に他のに同じ名を負わしめざりきと。
九 かれ(ザカリアス)いへり、上帝よ、如何にわれ子を得べき、妻は石女にてわれは老せるにと。
 かれ(天使)いへり、然り、爾の上帝いへり、これわれに容易し、われは爾曹の無かりし時爾曹を創作りたればと。
一一 答へていへり、噫、上帝、われに表徵を與へよと。天使答へき、爾健にして三夜の間人に語らざるべし、これ表徵なりと。
一二 時に渠室を出で其民にゆき渠等に信號を爲せり、朝に夕に~を頌めよとの。
一三 (われ其子にいへり)、噫、ヨハネ、決意を以て聖典を受けよと。兒童なる渠にわれ智を授け
一四 仁慈と潔白とを與へ、渠は熱誠にして、父母に孝に、傲慢乖戾のことなし。
一五 その生れし日其死すべき日、其復活すべき日に渠に平和あれ。
一六 聖典に於てマリア(の事蹟)を記せよ、其家族より東方の一地に退き
一七 渠等より(隱れるために)面被を掩ひし時、われ之にわが靈(ガブリエル)を遣はし、渠は完き人(の形)として渠女に顯はれき。
一八 渠女いへり、われ爾より慈悲~に遁れたり、爾若し(~を)畏れなば(われに勿近よりそ)と。
一九 渠答へき、洵にわれは爾の上帝の使なり、爾に聖き子を授くべき。
 渠女はいへり、如何にしてわれ子あるべき、男に觸れず、娼女ならぬにと。
二一 渠いへり、然り、爾の上帝はいへり、是われに容易し、われ渠を人に表徵とすべしわが仁慈とすべし、そは定まりしことなればと。
二二 斯くて渠女は渠を孕み、(胎內)に渠を有ちて遠き地に退けり。
二三 椰子樹の幹に近く分娩の苦は來れり。渠女はいへり、妾此前に死して忘れらればやと。
二四 其下に在りしかくいへり、勿憂ひそ、今~は爾の下に細流を置けり、
二五 椰子樹の幹を振れ、熟したる實爾の上に落ちん。
二六 食ひ、飮み、心を靜めよ。若し人を見ば
二七 いへ、洵にわれは慈悲~に斷食を誓へり、故にわれ決して人と語らじと。
二八 斯くて渠女は兒を抱きて其民に來れり。渠等は(渠女に)いへり、噫、マリア、今爾は奇事を爲せり。
二九 噫、アアロンの妹、爾の父は惡人にあらず、爾の母は娼女にあらずと。
 然るに渠女は(之に答ふべく其兒に)信號を爲せり。渠等いへり、如何に吾曹は搖藍にある兒と語るべきやと。
三一 (其時兒は)答へき、洵にわれは~の奴僕なり、われは(音の)聖典を受けて使徒たり。
三二 われ在る所にされたり、生涯禱を爲し施與を行へと命ぜらる、
三三 母に孝なれ傲慢に不幸なる勿らしめたる。
三四 わが生れし日、わが死すべき日、わが復活すべき日われに平和あれと。
三五 これマリアの子耶蘇なりき、渠等の疑ひし眞理の語なりき。
三六 子を有つことは~にあり得ず、~はそを禁ず。~、事物を宣するや唯「在れ」といへば則在り。
三七 洵に~はわが上帝にしてまた爾曹の上帝なり、~を禮拜せよ、これ正しき道なり。
三八 されど(耶蘇に就きて)渠等は宗派を分つ。大なる日の來れば不信は不幸なるよ。
三九 渠等われに來りて裁斷を受くる日、爾曹渠等をして聞かしめ渠等をして見せしめよ。不敬の輩は此日明白なる迷誤に在り。
 事の決せらるべき決定の日を爾曹、渠等に豫戒せよ、渠等は(今)閑却し信ぜざる間に。
四一 洵にわれは地と地上に在るあらゆる生物とを繼承すべし、渠等は悉くわれに歸すべし。
四二 (可蘭の)聖典にアブラハムを記せよ。渠は實に懺悔者にして豫言なれば。
四三 渠父に向ひていへり、噫、わが父、何故に聽かずず遂に爾をuせざるものを爾は禮拜するや。
四四 噫、わが父洵に爾に與へられざる知識はわれに與へられたり、さればわれに從へ、われ爾を平坦なる道に導くべし。
四五 噫、わが父、惡魔に勿仕へそ、惡魔は慈悲~の叛なれば。
四六 噫、わが父、洵にわれは爾が慈悲~の責罰を蒙らんを恐る、爾が惡魔の友たらんを恐ると。
四七 (父は)答へき、わが~祇を拒むか、アブラハム。爾已めずばわれ爾を石殺せんに、長くわれより去れと。
四八 (アブラハム)いへり、爾に平和あれ、われ爾の爲にわが上帝に赦を請はむ、~はわれに大なれば。
四九 われ爾と別るべし、爾が~の外にる偶像と別るべし、われはわが上帝にるべし、(爾が~祇を祈るが如く)われわが上帝に祈りて成功せざることなからむと。
 渠が渠等と其~の外に祈れる偶像とを去りしのち、われ渠にイサアクとヤコブとを授けき、われそを各豫言となし、
五一 わが慈惠によりて(豫言子孫富資の)賚を與へき、最高の尊敬を受けしめき。
五二 (可爾の)聖典にモセを記せよ、渠は正しく使徒にして豫言なれば。
五三 われ渠を(シナイ)山の右側より徵し近づけ私に(之と)語れり。
五四 われわが慈惠によりて(その補佐として)豫言たる弟アアロンを與へたり。
五五 聖典にまたイスマイルを記せよ、渠は約に固く使徒にして豫言なれば。
五六 渠はその一族に命じて禱と施與とを爲せり、渠はその上帝に享けらるゝ者なり。
五七 聖典にイドリスを記せよ、渠は正人にして豫言なれば。
五八 われ渠を高き地位に擧げたり。
五九 此等はアダムの後裔のの豫言の中、ノアと與に(方舟に)在りしの中、アブラハム、イスラエルの後裔、わが導き擇びしの中の~の惠を受くるなり。慈悲~の表徵の渠等に讀まるる時渠等はき拜し泣けり。
 然るに渠等の後代には禱を怠り歡樂に耽る來れり、渠等は必ず惡に墮つべし、
六一 たゞ悔ひて信じ正しきを行ふのみは天堂に入るべし、少くとも虐遇されざるべし。
六二 永劫の樂園は(その報償としての)居所たるべし、そを慈悲~は信仰の目標としてその奴僕に約せり、その約は必ず果さるべし。
六三 其處に渠等は平和の外毫も虛妄の談話を聞かず、朝に夕にその物資は充滿すべし。
六四 これ敬虔なるべきわが奴僕にわが繼受せしむる天堂なり。
六五 爾曹の上帝の命にあらざればわれ徒に天より下らず、わが前に在るものも後に在るものも皆~に屬す、爾曹の上帝は決して(爾曹を)忘れず。
六六 ~は天地の主宰なり天地の間に在る萬物の上帝なり、故に之を禮拜せよ禮を斷つ勿れ。爾曹他に渠に似たる名を知るや。
六七 人はいふ、われ死せる後洵に(墓穴より)復甦るべきやと。
六八 人はそのなかりし時われ人を創作りしを記憶せざるか。
六九 されど爾曹の上帝によりてわれ必ず渠等と惡魔とを(審判に)會すべし、その時われ渠等を地獄の四周にかしむ。
 其後慈悲~に對して他に超えて頑强なる叛(たりし)を其中より引き出すべし、
七一 われその孰か其處に燒かるべきかを熟知せり。
七二 爾曹の何も其處に近づかざるなけむ、これ爾曹の~の宣明なり。
七三 然るのちわれ敬虔なりしを救ひ、不敬なるを其處にきて留まらしむべし。
七四 わが明白なる表徵を渠等に讀むとき不信は信にいふ、兩の孰か善き境遇に居り優れし會合に在るべきと。
七五 されどわれ渠等以前に富資を擁し外見の優れたる如何に多くのを破却せしか。
七六 いへ迷誤に在るに慈悲~は長き昌榮の生涯を許すべし、
七七 渠等の威されし所は(現世の)責罰なりや最後の時なりやを見得るまで、その時に及びて渠等は孰か惡しき境遇に在り力弱きなるかを知るべし。
七八 ~は示ヘを受くるを更に充分に導くべし。
七九 (永久に)遺存する善行は~の眼には(塵世の資財よりも)報償に就きて優り果報に於て勝れり。
 わが表徵を信ぜずして、われ確に富資と子孫とを得たりといふを見ずや。
八一 渠は(未來の)密を知れりや、渠は(然あるべき)~の約を得たりや。
八二 決して然らず。われ必ずその言を錄すべし、われその責罰をすべし、
八三 われ渠をしてその言を承けしむべし、(最後の日に)渠ひとりわが前に出づべし。
八四 渠等は~の外に他の~祇を推してその光榮たり得とす。
八五 決して然らず。渠等は後に渠等の禮拜を拒みてその敵となるべし。
八六 われ惡魔を不信に送りてその罪惡を刺戟するを爾曹見ずや。
八七 故に渠等に(破却を祈るに)急ぐ勿れ、われ渠等の(定まりたる猶豫の)日數を算すれば。
八八 その日至らばわれ敬虔なるを(王の前に來れる)使節としての慈悲~の前に會すべし、
八九 されど惡人をば(家畜を)水に逐ふが如く地獄に逐ふべし、
 渠等は一人の勸解を得ざらむ、慈悲~の約を受けしを除きて。
九一 渠等はいふ慈悲~は子女ありと。そは不敬なり、
九二 天は碎け地は裂け山は崩れなむ、
九三 ~に子女ありとなすとき、~には子女なきに。
九四 天にあるもの地にあるものは唯奴僕として~に近づき得るのみ。~は(智と力とを以て)渠等を圍繞し、算を以て渠等を數ふ、
九五 渠等は復活の日に(輔佐なく從なくして〉すべて~に歸すべし。
九六 されど信じて善行を爲すに慈悲~は愛を加ふべし。
九七 洵にわれそを(可蘭)爾の語に易からしむるは、爾が由て以て敬虔にわが約を宣傳し不信の民に威を示し得んためなり。
九八 渠等以前に如何に多くの世をわれ破却せしか。爾はその一の殘れるを見るや。爾はそれに就きて多く私語くを聞くや。
瑪利亞母品[アル・マリアム](1-98節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
瑪利亞母 Maryam は耶蘇の母マリアなり。その事を載するを以て名づく。
時代
三五−四一はその他より少しく後るが如きも、他は麻訶末の默伽宣ヘ時代の初に出でたりと見ゆ。
內容
ザカリアス子をる(一−六)。
ガブリエル子を約す(七−八)。
ザカリアス表徵を求めて得たり(九−一二)。
ヨハネの使命と性行(一三−一五)。
不思議なるマリアの受胎、
耶蘇の誕生(一六−二三)。
マリアの不幸を慰む(二四−二七)。
耶蘇幼にして母の爲に辯じ自天命を說く(二八−三四)。
耶蘇は眞言(三五)。
~に子なし~を禮拜せよ(三六−三七)。
猶太基督ヘ分派の悲境(三八−四一)。
アブラハムの譚(四二−五一)。
セ(五二−五四)。
イスマイル(五五−五六)。
イドリス(五七−五八)。
~は眞の豫言を惠む(五九)。
には天堂を酬う(六−六四)。
ガブリエルは命を承けし時のみ下る(六五)。
~は唯一の主宰(六六)。
は復活しきて審判さる(六七−七三)。
不信の昌榮は~譴の表徵(七四−七七)。
善行は富資に勝る(七八−七九)。
惡行の必罰(八−八五)。
惡魔に役せられし不信の末路(八六−九)。
~は子なく、萬物を奴僕とす(九一−九六)。
麻訶末の爲に可蘭を易うす、~敵の末運(九七−九八)。
瑪利亞母品[アル・マリアム](1-98節)の註釋(文字の解釈)
二四 「其下に在りし」は或は耶蘇の生れながらに語ると爲し、或は椰子樹の蔭に居りしガブリエルなりと爲す。
三五 「眞理の語」とは眞に耶蘇を指すとの說と、此處にいひし事實を指すとの說とあり。
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