「コーラン經」 洞穴品 第十八 【アル・カハフ】 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文・解題・註釋の漢字・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
洞穴品【アル・カハフ】(1-110節)の本文
大慈悲~の名に於て
一其奴僕に(可蘭の)聖典を下し其處に寸毫も曲なき~を頌めよ
二 そは正し、~は其面前より(不信者に)責罰を以て威嚇し得、正を行ふ信者には永久に其處に在るべく優れたる報償(則、天堂)を授けんとの吉報を齎すものなり、
三 ~は女子を生むといふ者に警戒を與ふるものなり。
四 渠等はそれに就きて何の知識もなく、また出自もなし。渠等の口より出づるは危辭なり、其語は虛偽のみ。
五 若し(可蘭の)此新默示を信ぜずば(渠等の談話に對する熱中の餘)渠等の爲に憂ひて、恐らく爾曹は自害はむ。
六 洵にわれは地上に在る何物をも其裝飾に命ぜり、われ(人の)裁斷を爲し渠等の孰が其業に優れしかを見るために。
七 而してわれ必其處に在る何ものをも塵界となすべし。
八 爾曹、洞穴の夥伴とアル・ラキムとをわが表徵(の一)にして一(大)奇蹟なりと思ふや。
九 年少にして洞穴に隱くれしとき渠等はいへり、噫、吾曹の上帝よ、吾曹に慈惠を垂れよ、吾曹の爲に吾曹の業を正しく鹽梅せよと。
一〇 其處にわれ渠等の耳を打ちて(聾となし)多年の闢エ穴の中に(安らかに)在らしめき、
一一 然る後渠等を起して兩者の孰か渠等の其處に在りし閧善く算するかを知り得たり。
一二 われ爾曹に渠等の實を語るべし。洵に渠等は其上帝を信ぜる年少なりき、われ潤澤に渠等をヘへ導けり、
一三 渠等が(僣主の前に)立ちし時、われ確信を以て其心を固めたり、渠等はいへり、吾曹の主は天地の上帝たり、吾曹は決して他の~を祈らず、若し祈らば吾曹は法外の事を口にするものなればと。
一四 わが民は~の外他の~祇に歸せしも渠等はその爲に毫も明白なる威權を有せず、~に就きて虛僞を構ふるより惡き者ありや。
一五 (渠等の一ほ他に向ひていへり)、爾曹、渠等と別れ渠等が~の外に禮拜せる所(の~祇)と別れて洞穴に遁れよ、爾曹の上帝は豐に爾曹に慈惠を垂れむ、爾曹の爲に其業を利せむと。
一六 爾曹其洞穴より昇りし太陽の右に傾き渠等を左に殘すを見得たり、渠等は(洞穴の)廣き所に在りき。是~の表徵(の一)なり。誰にても~が導かんとする者は(正しく)導き、~が迷誤に陷れんとする者をば何人も防ぎ得ずまた導き得ず。
一七 爾曹は渠等の睡れる闍箔凾フ覺め居たるを判ずべし、われ渠等を右に左に反側せしめき。その狗は洞口に前脚を伸ばせり、爾曹若し俄に入らば直に身を囘へしで走りけむ、渠等を見て畏怖したりけん。
一八 斯くわれは渠等を睡より覺まして相互に問答せしめき。渠等の一人はいへり、如何に久しく此處に在りしかと。他はいへり、爾曹の主はそを知らむ、今爾曹の一人に錢貨を持たせて市城に遣り其民の孰か最善き最廉き食物を有てるかを見せしめよ、それに食物を齎さしめ注意して爾曹を何者にも勿知らしめて。
一九 洵に渠等來らば爾曹を石殺せざれば渠等のヘに歸るをひん、さらば爾曹は永久に昌へざらんと。
二〇 かくてわれ其民をして渠等の譚を知らしめき、~の約の眞實にして渠等の爭へる最後の時の疑なきを知らしむる爲に。渠等はいへり、渠等の爲に家を造れ、渠等の上帝は最善く其事情を知れりと。其事を執れる者は答へき、吾曹は必ず渠等の爲に觀宇を建てむと。
二一 (或は睡人は)三人なり其狗は第四位に居るといひ、(或は)五人なり狗は第六位を占めたりと祕事を推していひ、(或は)七人なり狗は第八位に居るといふ。いへ、わが上帝は其數をよく知れり、そを知る者は少しと。
二二 されば(爾曹に默示されしところに從ひて)明證なくしてそを爭ふ勿れ、それに就きて(基督ヘ徒に)勿問ひそ。
二三 何事をも勿語りそ、われ明日そを明にすべし、~の欲するにあらずば。爾曹忘れなば爾曹の上帝を記せよ、いへ、わが上帝は容易く吾曹を導くべし、吾曹をして正しく其眞相に近づかしむべしと。
二四 渠等は洞穴に在ること三百有九年なりき。
二五 いへ、~は如何に久しく渠等の其處に在りしかを知る、天地の祕密は~に知らる。~は見且聞くと。此民は~の外に一の保護者なし、~は其宣明(の知識に)就きて他人の容嘴を許さず。
二六 爾曹の上帝の聖典に就きて爾曹に默示されしところを讀誦せよ、(其中の何れをも變易せずに)。~の辭句を改むる力ある者なし、(若し爾曹そを圖らば)~の外に奔投するところなけむ。
二七 爾曹、晨に夕に其上帝を祈り其眷遇を求むる者と與に固持堅忍なれ、爾曹の眼をそれより轉じて現世の榮華を勿求めそ、其心にわが記憶を忘れて其快樂に從ひ眞理を抛つ者に勿從ひそ。
二八 いへ、眞理は爾曹の上帝より來る、欲する者をして信ぜしめよ、欲する者をして信せざらしめよと。われ不正の者には必ず(地獄の)火を設くべし、其焰と煙とは帷幕の如く渠を圍むべし、若し救を求めなば熔けたる銅の如き水を與へん、そは其面を燒かん。噫、如何に悲慘なる地位よ如何に不幸なる境遇よ。
二九 信じて善行を修する者には其正業の報償を滅ぼさじ、
三〇 此徒の爲にはC流の樂園を永久の居所として設く、其處に渠等は黃金の環釧を繫げ、煙ヲ鏤錦の壕゚を着て寶座に安居すべし。噫、如何に幸bネる果報よ、如何に安易なる牀搨よ。
三一 譬諭として渠等に二人をかむ、その一人にはわれ二箇の葡萄園を授け椰子樹を以て之を繞らし、其閧ノゥ穀を生ぜしめ、各園より(時季に應じて)果實を生じ決して誤る勿らしめ、
三二 其中央より河水を流れしめて豐潤ならしむ。渠其友に向ひて、われ富資に於て爾に超え一族盛なりと論ぜり。
三三 渠自その心に逆ひ不正の罪を懷きて其園に赴きていへり、此園は永久に荒まじとわれは思ふ、
三四 最後の時は來らじとわれは思ふ、假令われわが~に歸るともわれ必ず之に代へて更によき園を得べしと。
三五 其友渠に向ひて論ずらく、爾は塵土より爾を創作りのち種奄謔闔「を創作り、然るのち爾を完き人となせし~を信ぜざるか、
三六 されど(われには)~はわが主なり、われ他の何者をもわが主と竝べざるべし、
三七 爾その園に行くや、~の欲するまゝに、~の外に力なしとはいはずや。假令われ物資と子孫(の數)とに於て爾より劣ると見ゆるも、
三八 わが上帝はわれに爾の園より優れたるものを授け得べし、天より箭を放ちて其園を荒蕪の塵土と化し得べし、
三九 さては其河水地中に沈みて爾の引き得ざるに至らんと。
四〇 渠のは(その友の豫め戒めし如く破壞を以て)圍繞されたり、其時渠(悲しみて)手を垂れ豫期せしところを悔ひたり、果實は方眼格の上に落ちたれば。渠いへり、われ決してわが上帝の外(何の~祇をも)禮拜せざりしならむにと。
四一 渠は~の外にそを助くる何者をも有せず、また(~の報復に對して)そを防ぐ能はざりき。
四二 かゝる時保護は~の權に在り、~は最良の應報者たり至上の成功を授くる者たり。
四三 渠等に現世の譬諭を示す。そは猶わが天より降す雨水の如し。地上の草木はそれと和し(冊々として榮え)てのち、朝には風の吹き散らす乾ける刈科と爲る。~はすべての事を爲し得。
四四 富資と子孫とは此現世の裝飾なり、されど善行の永恒なるは爾曹の~の見るところにては更によし、果報と希望とに於て更によし。
四五 ある日われは山岳を移すべし、爾曹は地の平坦なるを見ん、われ其時悉く人を會すべし、其何人をも剰さゞるべし。
四六 其時渠等は列次を以て上帝の前に在らむ、(~は渠等にいはむ)、今爾曹はわが始めて爾曹を創作りし如く赤身にてわれに來れり、されどわれ爾曹にわが約を果さゞりしを思ふよ。
四七 而して(其手に各人の所業を錄せる)記錄はあるべし、爾曹は其(錄せる所の)爲に惡人の太く畏れて斯くいふを見ん、あはれ吾曹には、何ぞや此書は、そは大小に論なく悉くそを擧ぐるかと。渠等は自爲せし所を眼前に見るべし。爾曹の上帝は何人をも不正を以て遇せざるべし。
四八 われゥ天使に、爾曹アダムを拜せよといひし時を記せよ。渠等は禮拜せり、妖奄フ一にして其上帝の命に背けるイブリスの外は。さるに爾曹、わが外に渠と其子孫とを保護者に仰ぐべきか、そは爾曹の敵なるに。斯る變易は不敬者の不幸よ。
四九 われ渠等を天と地との創造に與らしめず、渠等の創造に徵さず、また斯る誘惑者をわが輔佐とせず。
五〇 其日、~は(偶像信者に)いふべし、爾曹わが夥伴なりと想へる者に(保護を)祈れと。渠等は渠等を祈るべし、されど渠等は應ぜざるべし、われ渠等の閧ノ破壞の谿谷を隔つべし。
五一 惡人は(地獄の)火を見るべし、渠等は其處に投げらるべし、そを避くるに道なかるべきを知 るべし。
五二 われ此可蘭に於て各種の譬諭を種々に人に明せり、さるに人はその最多くを非難す。
五三 而もヘ戒渠等に下り其上帝の赦を請ふに方りて人の信仰を妨ぐるものは、其前人の處罰が渠等に來りさては(來世の)譴責が公然渠等に來るまで渠等の待てるに外ならず。
五四 わが使師を派せるは吉報を傳へ警戒を宣するためのみ。信ぜざる者は無用の論を以て眞理を無效たらしめんと爭ふ。渠等はわが表徵とヘ戒とを嘲笑せり。
五五 其上帝の表徵を知りながらそれに背き、その嘗て手づから爲せし所を忘るゝ者よりも不正なる者ありや。洵にわれ其心に掩物を懸け渠等をして(可蘭を)理解せしめず其耳に聽く能はざらしむ、
五六 假令爾、渠等を(眞の)正導に招くともなは渠等は爲に永久に導かれじ。
五七 爾曹の上帝は慈悲にして大度なり、渠は渠等の所業に依てそを處罰せんには疑もなく處罰を急ぐべし、されど威嚇は渠等に對し(て宣せられ)渠等は~の外に隱匿の地なからむ。
五八 從前のゥ城市は不正を行ひし故にわれ破却せり、われ豫め其破却を警戒したりき。
五九 モーセは其奴僕(ヌンの子ヨシュア)にいへり、われ兩海の會する處に達するまで行きて已まじ、われ數年の闕sかむと。
六〇 然れども渠等兩海の會點に達せしとき其魚を忘れ魚は自由に海に入れり。
六一 渠等其地を過ぎし時モーセ其僕にいへり、われに餐を與へよ今われ旅行に疲れたりと。(その僕)應へけらく、爾知れりや(何事の起りしかを)、吾曹岩上に宿りしときわれ魚を忘れたり、われにそを忘れしめそを爾に想起せしめざりしは惡魔に外ならず、魚は警くべき勢にて海に入れりと。
六二
六三 モーセはこれ吾曹の求むる所なりといひ、與に來路によりて歸れり。
六四 (岩邊に歸りて)渠等はわが慈惠を垂れわが知識を授けしわが奴僕の一人を見たり。
六五 モーセ渠に向ひて、われ爾に從ふべきか、爾がヘへし所(の一部)をわがヘ示としてヘへ得るためにといへり。
六六 渠答ふらく、洵に爾はわれに忍び得じ、
六七 爾が其知識を思ひ得ざる此等の事を如何に爾の耐ふべきやと。
六八 モーセ答へき、~の意ならば爾はわが忍び耐ふるを見ん、また何事にもわれ爾に不柔順ならじと。
六九 渠いへり、爾若しわれに從はゞわが其意を宣明するまで何事に就きても勿問ひそと。
七〇 斯くて渠等は(海に沿ひて)行きて一船に達せり、渠はそれに穴を穿てり。(モーセ渠に)いへり、爾穴を穿つは乘れる者を溺らさんとにや、さて爾の所爲の恠しさよと。
七一 渠答へき、われ爾はわれに耐へずといはざりしか。
七二 モーセいへり、勿叱りそ、われ忘れたり、難きをわれに勿責めそと。さて(船を捨てゝ)渠等は進み、一年少に會ひて渠はそを殺しき。(モーセ)いへり、渠他を害せざるに爾ほ無辜を殺せるか、今や爾は不正を行へりと。
七三
七四 渠答へき、われ爾はわれに耐へずといはざるかと。
七五 (モーセ)いへり、今より後われ何事にまれ問はゞわれを勿伴ひそ、今はわれ爾に謝せんと。
七六 斯くて渠等は進みて一城市に到れり、其民に食を請ひしに渠等は拒めり。其處に將に頽れんとする一壁を見て渠はそを直せり。(時にモーセ渠に)いへり、爾欲せば爾は其報酬を得べきこと必せりと。
七七 渠答へき、之われと爾との袂別たるべし、われ爾が耐へ得ざりし所の意を釋かむ。
七八 船は海上に勞役する貧人のものなり、王ありてそを奪せんとすればわれ其用を爲さゞらしめたり。
七九 年少の兩親は眞の信者なり、われ渠が不信者にして累を及ぼさんことを恐れたり、
八〇 故にわれ其上帝が渠の代りに更に正しく更に孝なる子を渠等に授けんことを希へり。
八一 壁は城中の二孤の有たり、其下に(隱くされたる)渠等の寶貨あり、其父は正しかりき、爾の上帝は渠等が成年に達して上帝の慈惠によりて其寶貨を取出すを欲せり。(爾の見たる)わが所爲はわが心に出でしに非ず(たゞ~のヘに從へり)。これ爾が耐へ得ざりし事の解釋なりと。
八二 猶太族はヅール・カルナインに就きて爾に問ふべし。答へよ、われ爾に渠の事蹟をかむ、
八三 われ渠を地上に有力にせり、われ渠に(その欲する)あらゆる事(を成就する)の方策を授けき。
八四 渠進んで太陽の沒る所に達し、其K泥の泉に沈むを見たり、其處に近くある民を見たり。
八五 われいへり、噫、ヅール・カルナイン、(この民を)處罰せよ、さらずばそれを寛待せよと。
八六 渠答へき、(渠等の)何人にもあれ不正を行ひし者をば吾曹(現世に於て)必ず罰すべし、其後渠は其上帝に歸すべく~は峻刑を以てそれを罰せん。
八七 されど信じて正しきを爲さば何人も最優れたる報償を受くべし、吾曹は容易き命を渠に下さんと。
八八 それより渠は更に進み、
八九 太陽の出づる處に到れり、其處に隱るべき何物をもわが與へざりしある民の上に其昇るを見たり。
九〇 斯りき、われわが知識を以て渠に在りし所(の力)を理解せり。
九一 渠征旅をなせり(南より北に向ひて)、
九二 渠兩山の閧ノ來り、其下に言語の殆んど通ぜざるある民を見たり。
九三 渠等いへり、噫、ヅール・カルナイン、洵にゴクとマゴグとは國を荒らしたり、されば吾曹は吾曹と渠等との閧ノ爾が城砦を築くを條件として貢賦を爾に納るべきかと。
九四 渠答へき、わが上帝より授かりし力は(爾曹の貢賦よりも)更によし、されど力めてわれを助けよ、われ爾曹と渠等との閧ノ壁を造らむ。
九五 われに大片の鐡を持ち來れ、(兩山の)南側の(の空處)を充たすまでと。渠(工人に)いへり、(風櫃を以て)そを吹け、火になるまで。渠(また)いへり、われに熔けたる銅を持ち來れ、われ其上に注がんにと。
九六 斯くて(此壁成るや)ゴグとマゴグとはそを削る能はずまた穿つ能はず。
九七 (ヅール・カルナイン)いへり、是わが上帝の賚賜なり、
九八 されど上帝の宿命到らばそを塵土に化すべし、わが上帝の宿命は眞なればと。
九九 某日にわれ渠等の或ものをして潮の如く他に押し寄せしめん、角は鳴るべし、われ渠等を一團に集めん。
一〇〇 其日われ不信者の前に地獄を現せん、渠等の眼はわが記憶より掩はれん、渠等はわが言を聞き得ざらむ。
一〇一
一〇二 不信者はわが外にわが奴僕を保護者と仰ぎしことを考ふるや。洵にわれは異端の為に地獄を設けたり。
一〇三 いへ、われ爾曹に誰か其業空しきを告ぐべきか
一〇四 誰か現世の努力惡しく導かれ誰か正しき業を爲せしかを。
一〇五 上帝の表徵を信ぜず其前に會するを信ぜざる者の業は空し、われ復活の日に渠等をして些の重きを爲さしめず。
一〇六 これ渠等の報なり、地獄。渠等はヘを信ぜずしてわが表徵と使徒とを嘲りたれば。
一〇七 されど信じて善行を修せし者は其居所として天堂の樂園を得べし、
一〇八 永久に其處に在るべく變易を求めざるべし。
一〇九 いへ、若し海水わが上帝の言を記すK汁とせば、洵に上帝の言の盡くる前に海は盡くべし、假令われそれに類せる他の海を以て補ふとも。
一一〇 いへ、洵にわれは爾曹の如く人なり。爾曹の~は唯一~なりとはわれに默示されし所なり。故に其上帝に會はんと望む者をして正しき業を行はしめよ。他の何者にも其上帝の職を分たしむる勿れ。
洞穴品【アル・カハフ】(1-110節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
此篇は七睡人物語、キル、雙角大王(亞歷山)の三譚より成る。故に或は~異品の稱あれども普通には最初の七睡人の譚によりて洞穴品と名づく。三譚以外の辭旬は前數品と同轍のものなり。
時代
默示の時代は明白ならねど、七睡人物語の如きは猶太基督ヘ徒より傳はりしものにて、麻訶末が默伽にて此徒と交通せしより推して宣ヘ第六年頃のものならんとは學の說なり。キル雙角大王の二譚は初は別時に出でしを後に合卷せしものとすれば其時代は不明なり。
內容
可蘭の價値とその民の不信を憂ふる麻訶末(一-五)。
地上の裝飾は塵土たるべし(六-七)。
洞穴の伴の譚(八-二二)。
洞穴物語に就きて麻訶末の應答とその年期(二三-二五)。
何人も可蘭を變易し得ず(二六)。
敬信は豫言の擁護(二七)。
惡人の痛苦と正の果報との對照(二八-三)。
二人の譬諭(三一-四二)。
現世は雨水の如く善行は資財一族に優る(四三-四四)。
審判の狀(四五-四七)。
イブリス、妖、偶像信(四八-五一)。
不信のに可蘭を否む(五二-五三)。
吉報警戒を齎す豫言(五四)。
背ヘの罪(五五-五八)。
セとキルとの譚(五九-八一)。
雙角王の物語(八二-一〇〇)。
審判の日の賞罰(一一-一八)。
水を墨とするも說き盡くし~の語(一九)。
麻訶末は唯人なり(一一)。
洞穴品【アル・カハフ】(1-110節)の註釋(文字の解釈)
八 エフェソスの名門の七年少羅馬皇帝デキウスDecius(亞剌比亞にてはデキアヌスDecianusの迫害を避けて一洞穴に隱れて多年をりしといふ有名なる七睡人物語なり。但アル•ラキムAl Raqimは何を指すや明ならず。或はその避難の出名または谷名とし、或は七睡人に伴ひし狗の名なりとし、或は年少の名を錄して洞ロに立てし脾面の稱なりとす。更に他說によればアルラキムは七睡人とは別なり、天候の危惡に逢ひて洞中に隱れし三人大石の墜落のために洞ロを塞がれて出づる能はず、各その修コを述べて~助を禱りしに不思議にも洞ロ開けて出づるを得たる物語なりといふ。
一六 太陽の方向をいふは洞穴の南に向へるを證し廣きをいふはその中央に居りて寒熱に耐へ易きをいふ。
二四 三百九年は或說にては太陽曆三百年を太陰曆に換算せるなりといふ。されど通說にエフェソスの七睡人はデキウス帝の世に洞穴に隱くれて少テオドシウス帝の世に出でたりといへば約ニ百年なり。
五八 城市はアヂト、タムト、ソドムの城市なり。第七品の六六その他に出づ。
六四 わが奴僕の一人は、通說に據れぱ、豫言アルルal Khidharなり。麻訶末ヘ徒は通常之をフィネアス、エリアス、聖ジョジと混同して、以爲く靈魂輪��して此三にも流轉せりと。他の一說にては此の名をバリアイブン•マルカンBalya Ibn Malkanとし古波斯のアフリヅンAfridun大王の時の人とす。但し註家はニ孤の壁ありし城市、船を徵發せんとせし王其他に就きて種の史實を說くも要なければ今略す。
八二 ヅカルナインDhul Qurnainは雙角の義なり。普通に此王を以てイスカンダル•アルルミIskander al Rumi則、亞歷山大王と爲す。大王に雙角の綽號あるには說あり。希臘波斯兩國の主たるに因るとし、東西世界を征服せる故とし、その冕冠に二角あるが爲なりとし額上の兩捲毛雙角に類せしがためとなし、近世の說にては其錢面の像はジュピタ-モンの子として角ある像なればなりといふ。されど他の說にてはこの雙角王は亞歷山に非ず、同稱異人にてアブラハムと同代の波斯の古王なりといひ、また盈滿の王、アサアブ•イブンアルライシュAsaab Ibn al Raishとの說もあり。
九三 ゴクGogマゴグMagog亞剌比亞にてはヤジュジYajujiマジュジMajujといふ。ノアの子ヤフェトの後裔なりと傅ふ。要するにイラン種の北狄なり。或はプトレメオス、ストラボの書に見へしゲリGeliゲレGelaeか。
Office Murakami