「コーラン經」 巖谷品 第十五 【アル・ハヅル】 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文・解題・註釋の漢字・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
巖谷品【アル・ハヅル】(1-99節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 エリフ ラム ラ。これ此卷の表徵にして明白なる可蘭の表徵なり。
二 不信がムスリムたりしを希ふべき時は來るべし。
三 渠等をして(現世に於て)食ひ且樂しましめよ、抱負を持せしめよ、されど其後渠等は知らむ(その虛幻を)。
四 われ一城市をも滅ぼせしことなし、た恨の)定運あり。
五 其時期の(未だ至らざる)前には一民族も罰せられず、されど(その時至りし)後には遲延されず。
六 メッカの民はいふ、噫、ヘ戒の下されし爾、爾は確に惡魔に憑かれたり、
七 爾は天使を伴ひて吾曹に來らざるにや、爾果して眞を語らばと。
八 答へよ、われ正しき時にあらざれば天使を下さず、其時には少しも躊躇せずと。
九 われ正しく可蘭を下したり、われ確に(其訛誤を)守るべし。
 われ嘗て爾の前に古の宗派にの豫言を下したり、
一一 渠等に下りし豫言は一人も渠等の爲に嘲笑されざるはなかりき。
一二 之と同じくわれ(メッカの)惡人の心にまた(其豫言を)嘲笑せしむ。
一三 渠等は渠を信ぜざるべし、古の民衆の如くなるべし。
一四 されどわれ渠等に天のを開かば、渠等は終日其處に昇るべし、
一五 而していふべし、吾曹の眼は唯眩く、さらずば吾曹は魔術にかれりと。
一六 われ(十二)天宮の表徵を天に置きたり、そを(各種の形にて)表示せり、觀察の爲に。
一七 われ石を投げて惡魔を拂ひて之をれり、
一八 に近づき目に見ゆる火箭を以て射退けらるるもの外は。
一九 われ大地を開展し、其上に山岳を配置し、われ其處に各種の植物を一定の量に應じて生ぜしむ、
 われ其處に爾曹の爲に、また爾曹の支持せざるものの爲に生活が必要物を給せり。
二一 わが手裏にその藏を有せざるもの一もあるなし。われ定量に應じてそを天下に分布せざるもの一もあるなし。
二二 われ亦風を送り雲を驅り、われ天水を雨らして爾曹をしてそを飮ましむるも、爾曹はそを貯藏せるにあらず。
二三 洵にわれは生を與へ死を授く。われは(萬物の)繼承たり。
二四 われ爾曹の中の前に行くを知り、われ爾曹の中の後に留まるを知る。
二五 爾曹の上帝は(最後の日に)渠等を會合すべし、渠は知りて且賢なれば。
二六 われKき泥土の乾きたる粘土を形作りて人を創れり。
二七 われ前に煙なき火より妖を創れり。
二八 (想起せよ)爾曹の上帝天使に向ひて斯くいひしときを、洵にわれ將にKき泥土の乾きたる粘土を形作りて人を創らんとす、
二九 故にわれそを完成しわがを其中に吹入れしときは爾曹きて之を拜せよと。
 すべての天使はともにアダムを拜せり、
三一 されどイビスはそを拜すると與に在るを拒めり。
三二 ~は(渠に)いへり、噫、イビスよ、何事か(アダムを)拜すると與にあるを爾に遮ぐるやと。
三三 渠答へき、われはKき泥土の乾きたる粘土を形作りて爾の創りし人を拜するを可とせずと。
三四 ~いへり、さらば爾其處より行け、爾は石を以て攘はるべし、
三五 呪は爾に在るべし、審判の日までと。
三六 (惡魔はいへり)、噫、上帝よ、われに復活の日まで猶豫を與へよと。
三七 (~答へき)、洵に爾は猶豫さる者(の一人)たるべし、
三八 定まりし日の來るまでと。
三九 (惡魔答へき)、噫、主よ、爾われを誘惑したれば、われ當に地上に於て渠等を(不柔順に)誘惑すべし、
 而してわれ渠等の中の爾の選ばれし奴僕たるべきものを誘惑すべしと。
四一 (~いへり)、是われに對する正しき道なり、
四二 洵にわが奴僕に就きては、爾は渠等の上に何等の力を有たず、唯誘惑さるべきもの爾に隨從すべきにのみ力を有す、
四三 而して地獄は確に渠等總てに宣せられん、
四四 そは七門あり、其各門に渠等それぞれの團隊は歸すべし。
四五 然れども~を畏るゝ者はC泉の閧ネる樂園に住むべし。
四六 (天使は渠等にいふべし)爾曹安く平かに其處に入れ。
四七 われ其胸裏よりあらゆる憎惡を除くべし、(渠等は)面を對して坐する同胞たるべし、
四八 其處に倦怠の渠等を煩はすなく(永久に)渠等は其處より逐はれざるべし。
四九 わが奴僕に告げよ、わが大度仁慈(の~)なるを、
 またわが責罰の峻烈なるを。
五一 渠等にアブラハムの客の譚を語れ。
五二 渠等渠に到りて、平和(爾に在れ)といひしに答へて渠は、われ洵に爾曹を畏るといへり。
五三 渠等は、勿畏れそ、吾曹爾に賢き一子を約すといひしに、
五四 渠いへり、わが老境に達せるに爾曹われに(子を授くるの)約を爲すや、爾曹のわれに告ぐるところは何ぞやと。
五五 渠等いへり、吾曹の語るところは眞實なりされば望を勿失ひそと。
五六 渠いへり、誤れるの外、誰か~の惠に望を失はんやと。
五七 而して渠いへり、されば爾曹の使命は何ぞ、噫、~の使よと。
五八 渠等答へき、洵に吾曹は惡しき民を滅ぼさんとて遣されたり、
五九 されどロトの家族をばわれ總べて救ふべし、
 其妻を除きて。われ其妻は(異端の徒と與に滅ぼさるべく)後に殘る(の一人)たるべきを宣せりと。
六一 使ロトの家族に來りし時、
六二 渠は渠等にいへり、洵に爾曹は吾曹の知らざるなりと。
六三 渠等答へき、されど吾曹は(爾曹の民の)疑へる所(の宣言)を實行せんとて爾曹に來れり、
六四 われ爾曹に眞理を齎せり、吾曹は眞實(の使)なり。
六五 故に爾の家族を夜の或時に外に導く、爾は其後に從へ、一人も後を勿顧みそ、唯爾曹の命ぜらる所に行けと。
六六 われ渠に此命を下せり、此等(の民)の大部分は晨朝に亡ぶべければなり。
六七 城中の民は(外來の客の到着を)聞き喜びて(ロトに)來れり。
六八 渠(渠等に)いへり、洵にこはわが客なり、されば(渠等を輕しめて)われを勿辱しめそ、
六九 唯~を畏れよ、われを恥辱にな置きそと。
 渠等答へき、吾曹は爾のある人を保護し饗應するを禁ぜざりしかと。
七一ロト答へき、此等はわが女なり、爾曹若し(思を遂げんと)欲せば(寧ろ此等を用ひよ)と。
七二 爾の生をかけて、洵に渠等は其耽溺の爲に盲ひて迷ひ行けるよ。
七三 斯くて恐るべき暴風天より下りて晨に渠等を襲へり、
七四 われ(城市を)顚覆せり、われ焦泥の雨を渠等に降らしたり。
七五 洵に其處に敏き人に表徵あり、
七六 (此等の城市の罰せられしは人に踏むべき)正しき道を示すなり。
七七 洵に此處に眞の信に表徵あり。
七八 (マヂアンに近き)森林の人も亦不敬~なりき。
七九 よりてわれ渠等に報復せり。此兩(の滅亡)は(人に其行爲の範を示すための)明白なる則たるべし。
 アルハヅル(巖谷)の民も亦虛妄を以て~の使を誹りたりき。
八一 われ渠等に表徵を示せしも渠等はそを顧みず。
八二 渠等自安うせんため山巖を斫りて家と爲しき。
八三 されど音天より晨に渠等を襲へり、
八四 渠等の力めしところは何等の利uをも遺さりき。
八五 われ正道の外には天と地と其中にあるものとを創らざりき。(審判の)時は必來るべし。されば(噫、麻訶末)大度を以て(爾の民を)容せよ。
八六 洵に爾の上帝は(爾と渠等との)創造主たり、能く知れり。
八七 われ爾に(屢讀誦す可く)七句を授け、光榮ある可蘭を下せり。
八八 爾の眼をわが不信の或ものに與へし吉報の上に勿張らしめそ、また渠等の爲に勿悲しみそ。眞の信の上に慈溫なれ、
八九 われ公の說ヘなりといへ。
 (渠等若し信ぜずばわれそを罰せんこと恰も)分離派を罰せし如くならん、
九一 可蘭を幾部分に分ちたるを。
九二 何となれば爾曹の上帝によりてわれ渠等の總てよりC算を要求すべし、
九三 渠等の所業に就きて。
九四 故に爾の命ぜられし所を公にし、偶像信より去れ。
九五 われ必ず嘲笑に對して爾曹を助けん、
九六 ~の外に~を配したる者、渠等必ずや(其虛妄を)知らざるべからず。
九七 而して今われ爾の渠等にいひし所につきて深く慮るを知れり、
九八 されど爾は爾の上帝を頌めて禮拜(の一人)たれ、
九九 死に至るまで爾の上帝に仕へよ。
巖谷品【アル・ハヅル】(1-99節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
にアルハヅルの民のことあれば名づく。
時代
麻訶末の說ヘの第四年頃のものとす說と默伽時代の末年とす說とあり。
內容
不信もムスリムたりけむを願ふ日(一-三)。
各城各民の定運(四-五)。
默伽の民天使を下さんことを迫る(六-八)。
可蘭は~典(九)。
豫言に對する嘲笑、嘲笑の眩惑(一-一五)。
天地に於ける~の惠(一六-二)。
自然界に於ける~(二一-二二)。
生死審判に於ける~(二三-二五)。
泥土を人とし火を妖とす(二六-二九)。
アダムを禮拜せざるイブリス(三-三八)。
惡魔の誘惑(三九-四四)。
眞の信の地たる天堂(四五-五)。
アブラハムとロトの譚(五一-七七)。
ミヂアンの滅亡(七八-七九)。
アルハヅラの穴居の民の滅亡(八-八四)。
天地は正道によりて作らる(八五-八六)。
七句の勸、異端昌榮を羨まず、~敵の必罰(八七-九三)。
麻訶末に進說法の勸(九四-九八)。
巖谷品【アル・ハヅル】(1-99節)の註釋(文字の解釈)
一八 流星殞星を以て天使が近より來る惡魔を射退けるものと爲すなり。
 爾曹の支持せざるとは家族奴婢等、人は自之も養ふと思へども實はその人と同じく~によりて養はるゝ者とす。或は謂ふ、人の介意せざる動物を指せるなりと。
二四 前に行き後に留まるは、時代の前後を指せるにて前出の人後生の人の義とする說と、戰場に於ける前陣後陣の衆と爲す說とあれど、最正しと見らる解釋は審判の前に死するとその後に生存すると爲す說なり。
二八 二八—四ゥ節は第二品の三—三四、第七品の一一-一九を參照す可し。
五一 五一-七七の一段は第十一品の六九—八ニとその註とを參照せよ。
六七 外人の來りし報はロトの妻の告げたるなり。
七二 七二の一句は誰の言とも明白ならず、甲說には天使のロドに告げしところとし、乙說には~の麻訶末に語ろところと爲す。
七八 森林の民のことは第七品の八六を見よ。
 アル•ハヅルAl Hajr(またEl' Hagr)は巖石の義なり、ストラボの所謂ペトラPetraにて、メッカと里亞との間なる谷地をいひ、其地の民はタムド族なり。
八七 七句は可蘭經の第一品をいふ。
九四 九四-九六の三句は或人は麻訶末の最初の說ヘなりといふ。
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