「コーラン經」 伊不良比牟品 第十四 【アル・イブラヒム】 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文・解題・註釋の漢字・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
伊不良比牟品【アル・イブラヒム】(1-52節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 エリフ ラム ラ。此聖典を爾に下すは人を暗冥より光明に導かしめんためなり、其上帝の允許によりて~の偉大と光榮との道に。
二 天にあるものも地にあるものも~に屬す。不信は不幸なる悲しむべき責罰(の渠等を待つ)あれば、
三 現世を以て來世より重しと爲し、人を~の道より誘ひて邪路に導くよ。是等は(眞理より)遠く離れし迷誤たり。
四 われは(其義務を)その民に明白に宣傳し得るために渠等の國語を語らざる使徒を遣はさず、~はその欲するところを迷誤に陷れその欲する所を正路に導けばなり、~は偉大にして賢明なり。
五 われ嘗てわが表徵を齎してモセを遣はせり、(之に命じていへり)、爾の民を暗冥より光明に導け、渠等をして~の眷遇を思はしめよと。洵に其處に堅固謝恩の各人には表徵あり。
六 (想起せよ)、モセ其民に向ひて斯くいひし時を、ファラオの民より~の爾曹を救ひし時爾曹に對する~の眷遇を記憶せよ、渠等が爾曹を酷く虐げしを、渠等が爾曹の男子を殺し女子を殘せしを、其處には爾曹の上帝の大なる試ありき。
七 爾曹の上帝(モセの口を假りて)斯くいひし時、爾曹若し感謝せば、われ必爾曹に(眷遇を)加へん、されど爾曹若し忘恩ならば、わが賞罰必峻烈ならんと。
八 而してモセいへり、若し爾曹忘恩ならば、地上の總べて亦然らば、必ずや~は爾曹の謝恩を)要せじ、假令~は至高の頌詞に價すともと。
九 (國民の)爾の先出の往史は爾に達せずや、則、ノアの、アドの、タムドの民の、
 其後に出でし民の、其ヘは~の外何も知らざる豫言の往史は。渠等の使徒は明白なる表徵を以て渠等に至れり、さるに渠等は(そを輕して)掌を以て口を拍きていへり、吾曹は爾が齎せりといふ所(の使命)を信ぜず、吾曹は爾が吾曹に勸むるヘ法に就きて疑を抱くと。
一一 渠等の使徒答へき、天地の創造たる~に就きて何等かの疑ありや。~の爾曹を(眞信仰に)招くは爾曹に其罪(の一部)を赦さんが爲なり、定まれる時までに(爾曹に悟の猶豫を與へて其責罰を)輕減せんが爲なりと。
一二 渠等答へき、爾曹は吾曹と同じき唯の人なり、爾曹吾曹を吾曹の先の禮拜せる~祇より背かせんとす、されば吾曹に明白なる證迹を示せよ(爾曹の言若し眞ならば若干の奇蹟を以て)と。
一三 の使徒之に答へき、吾曹は爾曹の如き人に外ならず、されど~は其奴僕の中の欲するところに惠を下す、(吾曹の使命の)明白なる證明を爾曹に與ふるは吾曹(の力)にあらず、
一四 ~の允許によらざれば。故に~に信ョせよと。
一五 吾曹如何にして~を信ョせざるべき、~は吾曹を吾曹の道に導けるに。されば吾曹は必ず爾が吾曹を苦しむる所に耐へ忍ぶべし、故に他に信ョするをして~に信ョせしめよ。
一六 不信は其使徒にいへり、吾曹は必ず爾を國外に逐はん、さらずば爾吾曹のヘに歸るべしと。されど其上帝は示によりて渠等に語れり、われ必ず惡人を除くべし、
一七 われ爾曹をして渠等に代りて地上に住はしめん、こはわが判廷(に出づる)を恐るゝ者わが威を畏るゝ者の爲なりと。
一八 渠等は(~の)援助を請へり、而してあらゆる叛逆は成功を伴はざりき。
一九 渠の前には地獄(見えざれどもはれり)。~の渠に飮ましむるは穢れし水なり。
 渠はそを少しづ嚥下す、(其催嘔の爲に)容易く嚥下し得ず。死はまた各方面より迫り至れども而もく死し能はず。渠の前には悲しむべき痛苦(の備はれる)あり。
二一 これ其上帝を信ぜざるの譬諭なり。其業は風前に散る灰燼に似たり。そは其努力せる所より何等の固定せる根據を得べくもあらず。こは(眞理より)最も遠く離れし迷誤なり。
二二 爾曹は~が天と地とを知識に於て創りしを見ざるや。若し~にして欲せば爾曹を滅ぼし得ん、(爾曹の代りに)新なるを創り得ん、
二三 そは~にはき業にあらず。
二四 渠等は總べて最後の日に)~(の前)に到らざるを得ず、渠等の中の弱きは傲慢なるにいふべし、洵に吾曹は(地上にては)爾曹の從たりき、故に爾曹は~の報復(の若干)を吾曹より避せざらんやと。
二五 渠等は答ふべし、若し~(正しく)吾曹を導きたらんには(吾曹は爾曹を必ず導きたらん)。吾曹吾曹の苦痛に)耐へ得ずとも奬たよく忍び得んも、そは吾曹に均しかるべし、吾曹は遁るに途なければと。
二六 審判のありたらん後に惡魔はいはん、洵に~は爾曹に眞の約を約せり、われまた爾曹に約を爲せしも爾曹を欺けり、われ爾曹を强ふるの權なければなり、
二七 されどわれ唯爾曹を呼びしに爾曹われに答へしなり、さればわれを勿咎めそ、爾曹自罪せよ。われ爾曹を助け能はず、爾曹またわれを助け能はず。洵にわれ今、今までわれを~とともに見しことを爾曹に辭す。惡人の爲には悲しむべき責罰ありと。
二八 然れどもヘを信じ正を行ひしは河水の流るる樂園に導かるべし、渠等は其上帝の允許によりて(永久に)其處に留まるべし、渠等の賀は其處に和平なるべし。
二九 爾曹は~が如何に譬諭を示せしかを見ざるや、善言は其根地に固く入り其枝天に高く朝し
 其果實~の意によりて四時に實る良木の如しと。~の譬諭を人に說くはその訓へられんが爲なり。
三一 惡言は例之ば地面より拔かれて根なき惡木の如し。
三二 ~は信ずるを現當二世確實なる信仰の言を以て固むべし、されど惡人を迷誤に陷るべし、~はその欲するまに行ひ得ればなり。
三三 爾曹は~の惠を不信に變へ其民を全滅の境たる地獄に墮ちしめしの上を思はざるや。
三四 地獄に於て渠等は燒かるべし、そは不幸なる去所たるべし。
三五 渠等は人をして其路より外れしむるため偶像を以て~に配せり。いへ(渠等に)、樂めよ(一時現世の快樂を)、されど(其處を)離れ去らば爾曹は(地獄の)火に入るべしと。わが信ずる奴僕に、禱を怠らず、わが與へし所を以て公私の施與を爲せよといへ、
三六 其處に毫も賣買なく何等朋友なき日の來る前に。
三七 天と地とを創りしは~なり、雨水を天より降らせ、それにより爾曹の爲に果を實らすは~なり、其命によりて爾曹の用途の爲に船舶を洋上にせしむるは~なり、~はまた河流をして爾曹の用たらしむ。~はまた太陽と太陰とをして其運行を懈らしめず、晝夜をしてその交替を過たしめず、以て爾曹の利便に供す。~は爾曹の請ひ求むる各種の物を爾曹に授く、爾曹若し~の眷遇を枚擧せんとするも勝算に遑なからむ。洵に人や不正にして忘恩なり。
三八 アブラハムが斯くいひし時をな忘れそ、噫、上帝よ、此土を安全(の地)ならしめよ、われとわが子孫とに偶像の禮拜を避けしめよ、
三九 噫、上帝、渠等は多くの人を誘惑したれば。故にわれに從ふは何人にてもわがものたるべし、われに從はざる何人にも爾は仁なれ。
 噫、上帝よ、われわが所出(の或者)をして爾の~聖なる居處に近き不毛の谷に居らしめしは、噫、上帝よ、渠等をして常にらしめんが爲なり。さればあるの心をして渠等に向ひて懇切ならしめんことを赦せ、而して渠等に各種の果を授け渠等をして感謝せしめよ。
四一 噫、上帝よ、吾曹の隱くすところと公にするところは爾共に知る、天地にある何ものも~に隱くし得ざれば。わが老年にわれにイヌマイルとイサアクとを授けし~を頌めん、わが上帝は懇禱を聽きたれば。
四二 噫、上帝よ、わが禱を固持せしめよ、またわが子孫をも。噫、上帝よ、わが懇禱を享けよ。噫、上帝よ、われを赦せ、わが父母と信とを赦せよ、C算の日に於てと。
四三 勿思ひそ(噫、豫言よ、)~は不敬の徒の所業に無關心なりと。~はた(衆人の)眼の注ぐ其日まで渠等(の責罰)を遲延するのみ。
四四 渠等は(審判に徵す天使の聲に應じて)前に急ぐべし、其頭を擡ぐべし、渠等は(其眼前に見る所を)避し得ず、其心は(異常の畏怖の爲に)畏縮すべし。故に爾は(その)責罰の渠等の上に下るべき日を以て人を警めよ。
四五 其時不正を行ひしはいふべし、噫、上帝よ、吾曹に短き期間の猶豫を與へよ、
四六 吾曹は爾の徵に應じ爾の使徒に從ふべしと。(されど渠等には斯く答へらるべし)、何とや、爾曹今まで毫も變ぜしとは誓はずや。
四七 されど爾曹は自己の心を不正に持せしの棲所に棲めり、如何にわれ渠等を遇せしかは明白に爾曹に見ゆ、われ(渠等の破滅を)爾曹に例として示せり。渠等は(眞理に反抗する爲に)極力狡獪を用ひたれども、その狡獪は(その計圖を破り得る)~に洞察されたり、假令その狡獪は依て以て山をも移すべき力ありとも。
四八 されば勿思ひそ、(噫、豫言よ)、~は其豫言への約を違ふべしとは、~は偉大にして報復を善くすれば。
四九 地は他の地に變じ、天は他の天に變ずる日は來るべし、人は唯一の偉大なる~の前に(顯るべくその穴より)起つべし。
 爾曹その日に繫がれし惡人を見るべし、
五一 其袗衣は瀝たるべく、其面は火に掩はるべし。~は各人の心にその價せる所を償ふべし、~は決算償還に速なれば。
五二 是人に對する充分の訓誡ヘ誨なり、以て渠等を警しめ得、渠等をして唯一~なるを知らしめ、而して理解あるをして省察せしめ得。
伊不良比牟品【アル・イブラヒム】(1-52節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
イブラヒムはアブラハムなり。三八に其事あるによりて卷に名づく、他の多數の默伽默示の如く此一卷も亦麻訶末と孤列種との爭議錄なり。古豫言の先史往例を引きて今のヘ敵を折伏するはヘの方便なり。
時代
三三、三四等のを以てバドル戰時の孤列種の事となし從ひて默コ那默示と爲す註家あれども、據りし。全卷を通ずる句調の外に、一六、四七の兩は孤列種が麻訶末一派を默伽より放逐するを示せば、此卷は大抵ヘジラの直前に成るものと推定する。
內容
可蘭は人を光明に導く(一)。
不信を待つ責罰(二−三)。
の使徒は常にその國語を用う(四)。
セのイスラエル族への使命(五−八)。
往昔の豫言は奇蹟表徵のことを以て排斥せらる(九−一四)。
豫言の受(一五)。
豫言を逐ふ不信~告(一六−一八)。
不信の呪(一九−二一)。
~は不信を滅し新民を以て之に代へん(二二−二三)
審判の日偶像ヘの領は其信を捨つ(二四−二五)。
地獄にては惡魔も偶像信を捨つ(二六−二七)。
の天堂(二八)。
良木惡木の譬諭(二九−三二)。
地獄の火を以てさるゝ偽像信と眞の信への禱の勸(三三−三六)。
人間に封する~惠(三七)。
アブラハムの自己子父母のための禱(三八−四二)。
~の不信に對する必罰(四三−四六)。
不信の譎謀の失敗(四七−四八)。
復活の日の天地の變と惡徒の受罰(四九−五一)。
~のヘ誨(五二)。
伊不良比牟品【アル・イブラヒム】(1-52節)の註釋(文字の解釈)
 麻訶末ヘにては古來の豫言のヘを或は十四萬四千とし,或はニ十四萬四千となすも、その知るところは半百を出でずとせり。
一八 豫言がその敵に對して~の援助を請ふか、はた不信が自己と豫言との間の裁判を~に求むるか、渠等といふ代名詞の指示は明白ならず。
 イスマイルの母ハガルHagarはアブラハムの妻サラ一の嫉妬によりてその子ともに外に逐はれてメッ力地方に遁る。~はその爲めにゼムゼムの靈泉を湧出せしめその地の主たりしヨラミト家はその地に土着するを許せりとぞ。
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