「コーラン經」 隔壁品 第七 【アル・アラフ】 默伽
「コーラン經」は日本初のコーラン全文翻訳本です
「コーラン經」は<譯者・坂本健一>{上下二巻}として世界聖典全集刊行會から(大正九年)発行されました
「コーラン經」の構成は凡例、目次、114品(章)の本文、附録として各品(章)の解題と註釋、イスラム教とコーランについての詳細な後書きから成っています。
ここでは114品(章)別に本文と解題と註釋をまとめて紹介します
本文・解題・註釋の漢字・送り仮名は大正時代そのままの形を復刻できるように努めました
隔壁品【アル・アラフ】(1-206節)の本文
大慈悲~の名に於て
一 エリフ ラム ミム サド。
二 聖典は爾に下されたり、故にそれに就きて爾の胸裡に毫末も疑惑なからしめよ、爾そを說きそを信のヘ戒たらしめ得るために。
三 爾曹の上帝より爾曹の下されしところに從へ、~の外他の示ヘに勿從ひそ、そは爾曹をヘ戒すること甚少し。
四 如何に多數の城市をわれ破却せしよ、わが報復の夜至り、または日中渠等の休憩せる時に至りて。
五 わが處罰の渠等に至りし時、渠等の禱は、洵に吾曹正しからざりきといふの外なかりき。
六 われ豫言を派せし所のを必ずC算に召集すべし、また渠等に派せしをも必ずC算に召集すべし。
七 われ渠等に知識を以て(渠等の所業を)語るべし、われ(渠等より)不在にあらざれば。
八 その日(人の所業の)衡量を正すべし、その秤衡の(渠等の善業を積みて)重きは幸なるべし、されどその秤衡の輕きは、わが罪を犯してその心を失ひしなり。
 今われ爾曹を地上に置き其處に爾曹に食を與ふ、然るに爾曹の感謝する如何に少きよ。
一一 われ爾曹を創り、然る後爾曹を作る、而しての天使にアダムを禮拜せよといひしに、渠等(皆之を)禮拜せしも、唯イブリスは禮拜せざりき。
一二 ~(之に)いへり、何とてアダムを禮拜せざる、われそを命ぜるにと。渠答へて、われは渠より優れり、爾は火よりわれを創りしも渠をば土より創れりと。
一三 ~いへり、されば爾(天堂より)下れ、爾は傲然其處に在るに適せざれば(其處より)下れ、爾曹は卑しむべきもの一なりと。
一四 渠答へて、洵にわれに復活の日まで猶豫を與へよといへば、
一五 ~いへり、洵に爾は猶豫さるべきの一なりと。
一六 渠(惡魔)いへり、爾われを壞りたれば、われ爾の正道に於て人を待つべし、
一七 而してわれ前より後より右より左より渠等を襲はむ、爾渠等の多數の感謝するを見ざらむと。
一八 ~(渠に)いへり、故に爾去れ貶しめられよ、(遙に)逐はれよ。
一九 洵に何人にまれ爾に從ふをわれ必ず悉く爾と與に地獄に墜さむと。
 されど(爾は)噫、アダム、爾と爾の妻とは天堂に住め、爾曹の欲するまに菓實を食へ、されど此樹に勿觸れそ、爾曹不正(の數)たらんを恐ると。
二一然るに惡魔は渠等より隱されし渠等の裸形を渠等に露出さんとしていへり、爾曹の上帝の此樹を爾曹に禁ぜるは爾曹二人の天使となりさては不滅となるを恐るのみと。
二二 また誓ふらく、洵にわれは眞實に爾曹の爲に忠言するなりと。
二三 渠斯く欺きて渠等を墮落せしむ。渠等二人此樹を味ひしに、其裸形は渠等に見え、渠等身を掩ふべく樂園の木葉を集め始めき。上帝渠等に向ひて、われ此樹を爾曹に禁ぜしにあらずや、われ爾曹に洵に惡魔は爾曹の公敵なりといひしにあらずやといへり。
二四 渠等應ふらく、噫、上帝、吾曹は己の心を不正に處理ひぬ、爾吾曹を赦し吾曹に慈惠を垂れずば吾曹は必ずや滅びんと。
二五 ~いへり、爾曹下れ、爾曹の一は他の敵なり、爾曹は地上を棲所とし時季の食物を得んと。
二六 ~いへり、其處に爾曹は生くべし其處に爾曹は死すべし其處より爾曹は復活の日に召されんと。
二七 噫、アダムの子孫われ爾曹に爾曹の裸形を掩ふために衣服を授けたり、善き衣服なり、されど敬~の衣は更に善し。これ~の表徵(の一)なり、恐らく爾曹そを思ひ得ん。
二八 噫、アダムの子孫、惡魔をして爾曹を惑はしひる勿れ、惡魔は爾曹の父母にその衣を奪ひてその裸形を露出さしめて樂園より逐ひたれは。洵に渠は爾曹を見る、渠も渠の伴も(ともに爾曹を見る)、爾曹は渠等を見ざるに。われ惡魔として不信の恩主たらしめき。
二九 渠等穢れたる所業を爲すやいふ、われ吾曹の父の同じき(を爲す)を見たり、~は吾曹にそを(爲すを)命ぜりと。いへ、洵に~は穢れたる所業を命ぜず、爾曹知らざることを~につきていふかと。
 いへ、わが上帝は吾曹に正しきを(行へと)命じたり、されば爾曹の面を禮拜の各方面に向けて、爾曹のヘの眞實を~に誓ひて禱れ。始め~が爾曹を創りしが如く(また~に)爾曹は歸らざるを得ず。
三一 一部(の人間)を~は示導せり、一部を迷誤に陷れき、その~の外に惡魔を自己の恩主としながら自正しと想ひたれば。
三二 噫、アダムの子孫、禮拜の何の場にても端正なる衣服を着、食ひ且飮みて度を過す勿れ、~は度を過すものを愛せざればなり。
三三 いへ、誰か~のその奴僕に作りし端正なる衣服と食物として(~の給せる)善き物とを禁ずるやと。いへ、此等の物は現世に於て信ずるに與へらる、特に復活の日に於て。斯くてわれ明白に(わが)表徵を理會せる民に明す。
三四 いへ、洵にわが上帝は顯なると隱れたるとを問はず穢れし所業を禁ず、また惡行不正を禁ず、また爾曹に何等の權威なき~に列するを禁じ、爾曹の知らざる所を~に就きて語るを禁ず。
三五 各の民には定まりたる時期あり。故にその期滿つるや、渠等は一時間の猶豫なく、また豫報せらるなし。
三六 噫、アダムの子孫、洵に爾曹の中よりの使徒は爾曹に來り(わが)表徵を爾曹に說明すべし、されば何人にもあれ(~を)畏れて改むるには其處に畏怖なく悲愁なかるべし。
三七 されどわが表徵を虛僞として譏り傲然之を拒むは(地獄の)火の伴たるべし、渠等は永久に其處に在るべし。
三八 誰か~に就きて虛妾を構へ~の表徵を僞瞞と爲すより不正なるあらんや。斯る徒には(~の宣命の)典籍に(錄されし所に)應じて(現世の幸の)渠等の配分授けらるべし、わが使者渠等に來りて渠等を死せしむるまでは、爾曹が~の外に禱りし偶像今何處に在りやといひて。その時渠等は、渠等は吾曹より消失せりと答へざるを得ず。而して渠等はその不信たりしことを自己に對して證せざる能はず。
三九 ~は(復活の日に於て渠等に)いふべし、爾曹、爾曹の前のの民妖と人とともに(地獄の)火に入れと。一の民の入る每に、その妹は呪はれて相踵ぎて其處に入るべし。渠等の後のはその前のに就きていはん、噫、上帝よ、此等は吾曹を惑はせり、故に渠等に(地獄の)火の二重の責罰を加へよと。~は答ふべし、そは孰れにも倍せん。唯爾曹知らずと。
 渠の前のはその後のにいはん、爾曹は吾曹の上に何等の慈惠む得じ、爾曹の得べき責罰を味へと。
四一洵に欺瞞を以てわが表徵を誹り傲然之を拒みしには天の門は開かれず、天堂に入らしめず、駱駝が針の眼を通るまで。斯くしてわれ惡人に酬ゆべし。
四二 渠等の牀は地獄に在るべし、渠等の衾は火なるべし。斯くしてわれ不正に酬ゆべし。  
四三 然れども信ぜる正しきを行ふ、(われ何人にもその能力以外に負擔せしめず)、渠等は天堂の伴たるべし、渠等は永久に其處に在るべし。
四四 われ所有憎惡をその心より除くべし、河水はその脚下を流るべし、渠等はいふべし、吾曹をこの樂境に導きし~を頌めしめよ、若し~にして導かずば吾曹は正しく導かれざるべし、今や吾曹の上帝のの使徒は眞理を以て(吾曹に)來れりと。渠等にいはるべし、爾曹の所業に對して(報償として)繼承せるものは實に天堂なりと。
四五 天堂に在るは(地獄の)火中に在るに對していふべし、今吾曹は吾曹の上帝が眞なりと吾曹に約せしものを見たり、爾曹も亦爾曹の上帝が眞なりと爾曹に約せしところを見しかと。渠等然りと答へざるを得ず。傳令その閧ノ立ちて喚ぶべし、~の呪は惡にあるべし。
四六 (人を)~の道より惑はしそを邪路に導き來世を信ぜざるに。
四七 されしと呪咀されしとの閧ノは隔膜あるべし、人はアルアラフの上に立ちて渠等の記識によりて各人を識別く可く、天堂の衆に向ひては爾曹の上に平和あれと呼ぶべし、されど渠等は(そを)熱望しながら其處に入る能はざるべし。
四八 また(地獄の)火の伴に眼を轉じてはいふ噫、上帝よ、爾吾曹をこの不敬~の民とともに在らしむる勿れと。
四九 而してアルアラフに立てるは其記識にて何人なるかを知り得る(或)人を呼びていふべし、爾曹の(富資の)蓄積は何を爾曹に利せしか、爾曹の自負せしところは。
 爾曹が~の慈惠及ばざるべしと誓言せしは此等の人か。爾曹天堂に入れ、(其處には)畏怖もなくまた悲愁もなかるべしと。
五一 而して(地獄の)火中の民は天堂の衆に向ひて、吾曹の上にある水を注げ、若しくは~の爾曹に與へし(爽快の)ものをといへば、渠等答ふべし、洵に~はそを不信に禁じたり、
五二 そのヘを以て笑柄と爲し遊と爲し現世の生涯の爲に欺かれたるものにと。この日われ渠等を忘るべし、恰も渠等がこの日の會合を忘れしが如くに、渠等わが表徵(の~に出でし)を拒みし故に。
五三 今われ(メッカの)この民に(~の默示の)聖典を齎したり、知識を以て之を說明したり、信ずる民の示ヘ仁慈として。
五四 渠等はその解釋說明より他に何を期待し得るか。その解釋の來るべき日に、そを遺忘せる渠等はいふらめ、今や吾曹の上帝の使眞理を以て(吾曹に)到れり、(と吾曹は知れり)、故に吾曹は吾曹の爲に辯護すべきある勸解を有するか、左なくば(吾曹の生時に)吾曹の爲せしより他(の所業)を爲し得るために(人世に)送りかへされんかと。然れども渠等は渠等の心を矢へり、渠等の不敬~にも想像せし所は渠等より遁れ去りたり。
五五 洵に爾曹の上帝たる~は天と地とを六日に造り、然る後その寶座に上り、夜をして晝を掩はしめ、晝を以て夜に踵がせ、また太陽と太陰と星辰とを造りて絶對にその命に服せしめき。總べての造物と(その)帝國とは其有にあらずや。~を頌へよ、あらゆる造物の上帝を。
五六 謙遜して私に爾曹の上帝に禱れ、渠は侵犯を愛せざれば。
五七 その改造の後に世界む勿汚しそ、畏怖と希望とを以て渠に禱れ、~の慈悲は正しきに近ければ。
五八 ~はその慈惠の豫報として風を送りつぎて(雨を帶びたる)重き雲を送りそを死地に驅り、それより雨水を下して百果を生ぜしむ。是の如くにわれ死を(その墓穴より)起すべし、そは恐らく爾曹考へ得む。
五九 善地は上帝の許によりて澤に菓實を生ずれども、惡地はそを生ずること甚し。是の如くにわれ理會ある民に(~惡の表徵を說明す。
 われ嘗てノアを其民に下せり、渠いへり、噫、わが民、~を拜せよ、爾曹は~の外に他の~を有せず。洵にわれ爾曹の爲に大なる日の責罰を恐ると。
六一 その民の酋等答ふらく、吾曹は確に爾の顯著なる迷誤に陷りしを見ると。
六二 渠答へていへり、噫、わが民、われ少しも迷誤なし、われは萬物の上帝たる上帝よりの使なり、
六三 われ爾曹にわが上帝の使命を齎す、われ爾曹に公平に謀る、われ爾曹の知らざる~を知ればなり、
六四 爾曹の中の一人によりて爾曹の上帝よりのヘ戒爾曹に來るとて何とて驚異しむべき、爾曹をして自注意すべくまた慈惠を受くべく爾曹を戒むるために。
六五 渠等は欺瞞を以て渠を誹る、されどわれ方舟に於て渠と與にありしを赦し虛欺を以てわが表徵を誹りしを溺らしたり、渠等は盲たればなり。
六六 アド(族)にわれその同胞フドを送れり。フドいへり、噫、.わが民、~を拜せよ、爾曹~の外に~を有せず、爾曹(そを)畏れざるかと。
六七 その民の中信ぜざるの長答へき、洵に吾曹は爾の愚妄(に導かれし)を見る、吾曹は確に爾を虛僞者(の一人)と爲すと。
六八 渠答へていへり、噫、わが民われ愚妄(に導かる)に非ず、われは萬物の上帝より爾曹に來れる使節なり、
六九 われ爾曹にわが上帝使命を齎す、われは爾曹の忠誠なる顧問なり、
七○ 爾曹、爾曹を戒むるために爾曹の中より一人を爾曹に送りて爾曹の上帝のヘ戒を傳ふるを驚異むか。如何に~が爾曹をノアの民の繼嗣に命じ偉大なる身材を爾曹に授けしかを思へ。~の慈惠を記憶せよ、爾曹の昌へ得る物にと。
七一 渠等いへり、爾は吾曹をして唯~のみを拜し吾曹の先の禮せし~祇を捨てしめんとて吾曹に來りしか。さらば爾が吾曹をす審判を吾曹の上に下せよ、爾の言果して眞ならばと。(フド答へき)、さらば爾曹の上帝より不意に爾曹の上に報復と憤恕下らむ。
七二 爾曹は爾曹と爾曹の先とが稱して~が何等の典據をも爾曹に默示せざりし(~祇の)名に就きてわれと爭はんとにや。
七三 然らば爾曹待て、われ亦爾曹と與に待たん。されどわれは渠と渠を信ぜし渠等とをわが慈惠によりて救ひ、僞瞞を以てわが表徵を誹りて信ぜざるを粉せりと。
七四 而してタムド(族)にわれその同胞サリを送れり。サリいへり、噫、わが民、~を拜せよ、爾曹~の外に~を有せず。今顯明なる證跡は爾曹の上帝より爾曹に來れり。この牝駱駝こそ爾曹に~の表徵なり、故に~の地にその畜はれ得る爲にそを自由に放て、そを害する勿れ、痛ましき責罰の爾曹に及ばざるため。
七五 如何に~が爾曹をアド(族)の繼嗣に命じ爾曹に地上の住處を授け、其處に野に牛畜を飼ひ山をきりて家を創らしめしかを思へ。故に~の恩惠を記憶し、地上に汚れたる暴行を勿なしそ。
七六 その民の中の自尊大なる酋長等は其卑しき、(則)その信ぜるに向ひて、爾曹サリのその上帝より派せられしを知るかと問ひしに渠等答へて、吾曹はにその派遣されしを信ずといへり。
七七 尊大なる答へていへり、洵に吾曹は爾曹の信ずる所を信ぜずと。
七八 よりてその駱駝の脚を斷ちて上帝の命を蔑していへり、噫、サリ、爾の吾曹をせしところを直に吾曹に來らしめよ、爾果して(~より)派せられし(の一人)ならばと。
七九 その時恐ろしき音より襲ひ來りしが、曉天に渠等その家中に伏しれて死せるを見たり。
 サリ渠等より去りていへり、噫、わが民、いまわれ爾曹にわが上帝の使命を果せり、われ爾曹に善く勸めしに爾曹善く勸めしを愛せずと。
八一 ロトがその民に斯くいひし時を思へ、爾曹、何人も先例を爾曹に殘さりし惡業を爲すか。
八二 爾曹婦人を捨て男子に慾を逞くせんとするか。確に爾曹は(あらゆる貞淑を)侵犯せる民なりと。
八三 然るにその民の應答は互に、渠等を爾曹の市城より逐へ、渠等は(爾曹の行へる罪より)自淨くせるなればといふに外ならざりき。
八四 故にわれ渠とその妻を除く外の家族とを救ひたり、妻は(後に)殘りしの一人なり、而してわれ渠等に石の雨を下せり。
八五 されば見よ惡人の最期の如何を。
八六 而してマヂアンに(われ)その同胞シュアイブを送れり。シュアイブ(渠等に)いへり、噫、わが民、~を拜せよ、爾曹~の外に~を有せず。今顯明なる論談爾曹の上帝より爾曹に來る。故に充分の尺度と正しき重量とを與へよ、人にその物の寸毫をも勿減しそ、また改造の後の地上に醜惡を爲す勿れ。これ爾曹の爲によかるべし、爾曹にして信じなば。
八七 あらゆる道にりて過ぐる~を信ずるをして~の道より轉じて邪路に陷らしむる勿れ。爾曹の數少かりし時~爾曹の數を揩ケしを思へ。見よ、醜惡の徒の最期の如何なるかを。
八八 若し爾曹の一部わが齎し來れる所を信じ、他の一部信ぜずば、忍んで~が吾曹の閧裁くまで待て、~は至上の判官なればと。
八九 自負せるその民の酋答ふらく、吾曹必ず爾と爾を信ずる徒とを城外に投げ出さん、さらずば當にわがヘに歸すべきなりと。渠いへり、吾曹(此處に)嫌はるとも何ぞや、
 一び~に救はれしのち復爾曹のヘに歸せんは~に對して僞るものなり、わが上帝たる~吾曹を捨てんと思はざるに(爾曹のヘに)歸るべき理なし。吾曹の上帝はその~智を以て萬事に通ず。吾曹は~に信ョす。噫、上帝よ、眞理を以て吾曹と吾曹の民衆との閧ノ裁け、爾は至上の判官なればと。
九一 信ぜざる民の酋いへり、爾曹シュアイブに從は爾曹當に滅亡すべしと。
九二 斯くて天風襲ひ到り、曉天には渠等家內に(死して)伏せるを見き。
九三 シュアイブを僞瞞となせしは始より其處に住まざるが如くなりき、僞瞞を以てシュアイブを誹りしは自死滅せり。シュアイブ渠等より去りていへり、噫、わが民、われいま爾曹にわが上帝使命を果せり、われ爾曹に正しく勸めしも、われ何ぞ不信の民の爲に悲しむを得んやと。
九四
九五 われ未だ曾て一城市にある豫言を送らず、た困苦を以てその民を苦しめき、渠等の自屈するために。
九六 その時(渠等に)惡の代りに善を與へて、富昌にして、困昌榮嘗てわが先に下れり(なほ吾曹に下れる如く)といふに至らしむ。さてわれ急に渠等に報復せり、渠等はそを(豫め)知らざりき。
九七 然れども斯る城市の民~を信じ畏れなば、われ必ず渠等に天地の幸を啓くべし。されど渠等欺瞞を以て(わが)の使徒を誹らば、われ渠等の罪に對して渠等に報復す。
九八 されば知る城市の民はその夜關眠の時わが報復のその上に下らざるを保せんや。
九九 また斯る城市の民白晝遊樂の刻わが報復のその上に下らざるを保せんや。
〇〇 渠等~の策略より安んずべきや。死せるの外は~の策略より安んじ得るなし。
一 前人より世界を繼承せるには、われわが欲するまにその罪の爲に渠等を困しめ得ること明白ならずや。されど渠等の心を閉ざし渠等をして聞き得ざらしむ。
二 われ爾曹に斯る城市の若干の物語を語らん。渠等の使徒は顯明なる奇蹟を以て渠等に來れり、されど渠等は前にその抗辯せし所を信ぜんとはせず。かくて~は不信の心を閉すべし。
三 而してわれ渠等の多數に於て(渠等の)約の何等の聽從を發見さず、されど渠等の大部分の惡行たるを見る。
四 その時われ(上述の使徒の後に)モセにわが表徵を齎してファラオと其族とに派せしに、渠等不公を以てそを遇せり、されど見よ醜惡の徒の最期の如何を。
五 モセいへり、噫、ファラオ、洵にわれは萬物の上帝よりの使徒なり、
六 眞理の外何事をも~に對して語るはわが權に非ず。いまわれ爾の上帝より顯明なる表徵を齎して爾に來れり、われと與にイスラエルの子孫を送れりと。ファラオ答へき、爾表徵を以て來らばそを示せ、爾の言果して眞ならばと。
七 是に於て渠その杖を投ぐ、見よそは現身の蛇と化せり。
八 袖裏より手を出す、見よそは觀には白く見えき。
九 ファラオの民の長いへり、此必ずや老練の魔術なり、
一一 渠爾を爾の地より逐はんとすと。さらば爾曹何とかする。
一一一 渠等答へき、渠とその兄弟とを(暫く)好遇せよ、(其間に)人を市に馳せて、
一一二 各老練の魔術師を集め來らしめよと。
一一三 の魔術は乃ファラオに至れり。
一一四 渠等いへり、吾曹捷たば必ず賞あらんかと。
一一五 答へていふ、左なり、爾曹必ずわが玉座に近きたり得むと。
一一六 渠等いへり、噫、モセ、爾まづ杖を投ぜんか、はた吾曹まづ投ぜんかと。モセ曰く、爾まづ投ぜよと。
一一七 渠等そを投ずるや(其場に在りし)衆人の眼を眩ませり、渠等を駭かせり、一大魔術を行へり。
一一八 時にわれモセに爾の杖を投げよと默示せり。而して見よ、そは渠等が(に)變化せし(と見せしめし)杖を呑み盡くせり。
一一九 其處に眞理は立され、渠等の爲せし所は消散せり。
−二 其處にファラオとその魔術とは憐れにも失敗せり。
一二一 の魔術師は匍匐して禮拜し、
一二二 且いへらく、吾曹は萬物の上帝を信ず、
一二三 モセとアアロンの上帝をと。
一二四 ファラオいへり、爾曹わが許可を與へざる前渠を信ずるか。洵にこれ爾曹が此處より住民を逐出さんと謀りし隱謀なり。而も爾曹知らざるべからず、(わが爾曹の主なるを)。
一二五 われ爾曹の手脚を斷りそれより刑に處し得ればと。
一二六 の魔術師答へき、吾曹は必ず(來世に於て)わが上帝に向ふべし、
一二七 爾はた吾曹が吾曹に來れる上帝の表徵を信ぜるの故を以て吾曹に報復すれば。噫、上帝、吾曹に忍耐を授けよ、而してヘ徒として死せしめよと。
一二八 ファラオの民の長いへり、爾はモセとその民とを行かしむるか、渠等の世界を汚し爾と爾の~祇とを捨つるに委かせてと。(ファラオ)答ふらく、吾曹は渠等の男兒を殺さしめ渠等の婦女 を生きしめん、(此法によりて)吾曹は渠等に勝ち得べしと。
一二九 モセその民に向ひていふやう、~の助を求めよ、能く忍び耐へよ、世界は~のものぞ、そを奴僕の中の欲するに繼承せしむ、(昌榮の)終局は(~を)畏るゝ者に(在るべし)と。
一三 渠等答へき、爾吾曹に來りし前吾曹は(男子を殺されて)めり、爾吾曹に來りし後も亦然りと。モセいへり、恐らく吾曹の上帝は爾曹の敵を滅さん、爾曹をして地上に於て渠に繼がしめ、如何に爾曹の行動するかを見るならんと。
一三一 而してわれ嘗て饑饉と果實の缺乏とを以てファラオの民を罰せり、その戒心し得るために。
一三二 而も善事に遭ふや渠等は是吾曹に(屬す)といふ、凶事起るや(それを)モセとその徒との不幸に歸せり。渠等の不幸は~とともにあらずや。而も多數はそを知らざるなり。
一三三 渠等(モセに)いへり、如何なる表徵を爾吾曹に示し以て吾曹を眩すとも、吾曹爾を信ぜざるべしと。
一三四 その時吾曹は洪水と蝗と蝨と蛙と血と顯なる奇蹟を示せしも、渠等傲倨屈せずして凶惡の民となれり。
一三五 然るに流疫の起るに及びて渠等はいへり、噫、モセ、~の爾に約せるところに從ひ吾曹の爲に爾の上帝を和めよ、洵に爾吾曹より流疫を除かば吾曹必ず爾を信ずべく、イスラエルの子孫をして爾と與に行かしむべしと。然るに(~の渠等に許せし)期の滿つるまで~の渠等より流疫を取去るや、見よ、渠等はその約を破れり。
一三六 われ渠等に報復し渠等を(紅)に溺らしたり。渠等欺瞞を以てわが表徵を誹りそを蔑したれば。
一三七 われ弱められし民をして世界の東方と西方とを繼承せしめたり。爾曹の上帝の優渥なる語はイスラエルの子孫の上に完了されたり、渠等は能く耐へ忍びたればなり。われファラオとその民との設け造りたる建設物を破り去れり。
一三八 われイスラエルの子孫をしてを過ぎしめて一民族に至らしむ。その民自偶像(の信仰)を抛ちていへり、噫、モセ、斯の民の~祇を有せしが如く、吾曹をして一~を有せしめよと。モセ答ふらく、洵に爾曹は愚民なりと。
一三九 斯民の從ひし所(のヘ)は破壞さるべくその爲せし所は空しければなり。
一四 渠いへり、われ爾曹の爲に~の外にある他の~を乞ひ得べきか、爾曹を世界の他のより擇びしはこの~なるにと。
一四一 われ爾曹を虐遇せしファラオの民より爾曹を救ひし時、渠等爾曹の男子を殺し女子を生かしめし時(を記憶せよ)、其處に爾曹の上帝よりの大なる試ありき。
一四二 われモセに(ヘ法を授くるの前)三十夜の潔齋を命ぜり、われ更に十日を加へて之を完うせり。其上帝の定めし時期は四十夜にして完了せり。モセは弟アアロンにいへり、爾(わが不在の閨jわが民の閧ノわが代理たれ、正しかれ、惡の道に勿從ひそと。
一四三 モセわが定めし時に來りその上帝之に語りし時渠いへり、噫、上帝、われに(爾の光榮を)示してわれをして爾を見せしめよと。~答へぬ、爾決してわれを見ざるべし、た山の方を望め、確に其處にあらば爾われを見るべしと。されど上帝山上に現はるやそを塵と化し、モセは失~してたり。
一四四 (~、渠に)いふ、噫、モセ、われ爾を(あらゆる)人の中に擇びき、わが使命を以てわが言語を以て。故にわが爾に齎せし所を受けよ、而して感謝を表する(の一人)たれと。
一四五 われ渠の爲に每事に就きてのヘ戒每案に應ずる裁斷を表に錄していへり、肅んで之を受けよ、而して爾の民を治めよ、渠等がこの最も優れたるヘ法に從ひて生き得るために。われ爾に惡の棲所を示すべし。
一四六 正義なくして自地上に尊大なるをわれはわが表徵より外に向くべし、假令渠等每に表徵を見るも渠等そを信ぜざるべし、假令渠等正道を見るも渠等はそを踏まざるべし、されど渠等邪路を見ばそを行くべし。
一四七 是渠等が欺瞞を以てわが表徵を誹り之を蔑するが爲なり。然れどもわが表徵の眞理を否み來世の會を否むにはその所業は空しかるべし。渠等はその行ひし所に應じて報償を受けざらんや。
一四八 モセの去りし後、その民は渠等の粧飾品にて吼ゆる犢を作れり。渠等はその自己に語られずまた自己を道に導かざるを見ざるか。そを自己の~としてとり惡を行へり。
一四九 されど渠等悲しみひ、その邪路に陷りしを見るやいへり、洵にわが上帝吾爾に慈惠せ垂れず吾曹を赦さらんには吾爾は必ずや死滅する(の數)たらんと。
一五 旣にしてモセ歸るや大に怒りていへを、わが去りし後爾曹の行ひし所は惡事なり、爾曹は爾曹の上帝の命に急ぎしかと。表を抛ち、弟の頭を執へて之を引けり。(アアロン)いへり、わが母の子よ、洵に民はわれに逆ひて行へり、殆んど渠等はわれを殺さんとしき、故にわが敵をしてわれの上にスばしめそ、またわれを惡しき民とともに勿おきそと。
一五一 モセいへり、噫、上帝よわれとわが弟とを赦せ、仁慈を以て吾曹を納れよ、爾は仁慈を行ふの中の最仁慈なるなればと。
一五二 洵に(渠等の~として)この犢をとりしには上帝よりの譴怒此世の恥辱至れり。斯くしてわれ虛僞を想ふに酬ゆべし。
一五三 然れども惡を行ひて後ひ改めて(~を)信ずるには洵に爾曹の上帝は仁慈なるべし。
一五四 モセの忿恕和められし時、渠表をとれり。そこに錄せしものは上帝を畏るゝ者に對する示ヘと仁慈となり。
一五五 モセわが定めし時に(與に山に上るべく)その民の中より七十人を選びき、電火雷雨起りしに渠いへり、噫、上帝よ、爾欲せば渠等を滅ぼしたらん、われをも亦。吾曹の中の愚の行ひし事の爲に吾曹を滅ぼさんとにや。これ唯爾の試なり。之を以て爾は其欲するまに迷誤に導きまた正道に導く。爾は吾曹の保護なり、故に吾曹を赦せ吾曹に惠あれ、爾は人を赦すの最上なれば。
一五六 而して吾曹の爲に現世と來世とに於ける善を錄せよ、爾に吾曹は導かるればと。(~) 答へき、われわが思ふ所にわが罰を下し、あらゆるものにわが惠を博むべし、われわれを畏るもの爲に善を錄すべし、
一五七 施與を爲しわが表徵を信ずるの爲に、
一五八 使徒無智の豫言に從ふ渠等とともにヘ法と音とに錄せらるべし。~は渠等に正しきを命じ惡しきを禁じ、(嘗て禁ぜられし)善事を適法として許しその惡事を禁ずべし、~は渠等にその重負擔を輕めその扼を除くべし。~を信じ~を尊び~を助けてそれとともに下りし光明に從ふは幸なるべしと。
一五九 いへ、噫、人、洵にわれは爾曹すべてに對する~の使なりと。~に天と地との王國は屬す、~の外に~なし、~は生を與へ~は死を與ふ。故に~とその使徒とを信ぜよ、~とその語とを信ずる無智の豫言を信じ之に從へ、爾曹正しく導かるために。
一六 モセの民の中には眞理を以て他を導き眞理に從ひて正しく行ふ一派の者あり。
一六一 われ渠等を十二族に分てり。その民飮まんことをモセに請ひし時われ之に默示して、爾の杖を以て岩を叩けといへり。其處に十二の泉湧き出で、人各その飮む處を知れり。われ雲を以て渠等を掩ひ滿那を下していへり、われ食物として爾曹に授けしよき物を食へと。渠等はわれ等を害ふ能はずして自害ふのみ。
一六二 渠等に向ひて、此市城に住め、爾曹の欲する所を食へ、而して赦をいへ、禮拜して門に入れ、われ爾曹にその罪を赦し善行に幸あらしめんといひし時を心に想せよ。
一六三 而も渠等の中の不敬の徒はこの意をそれに語らざりし他の語に變易したり。故にわれ天より渠等に憤怒を下す、渠等が侵犯したればなり。
一六四 渠等に上の市城を問へ、渠等が安息日を侵せし時、その魚が安息日に渠等に來わし時、されど渠等の安息日を守らざるやその魚來らざりし時。
一六五 渠等の一部は(他のものに)いへり、何とて爾曹は~が悲しむべき責罰を以て破滅し若しくは處罰せんとする民を戒むるかと。渠等答へて、是爾曹の上帝に對する吾曹の爲に辨解なり、而して渠等恐らく戒しめんと。
一六六 然れども渠等その與へられしヘ戒を遺忘せしとき、われ渠等に惡行を禁ぜしを救へり、われ侵犯を峻罰に處せり、その惡を爲せるが故に。
一六七 渠等傲然としてその禁ぜられし所を避くるを拒みし時、われ渠等にいへり、爾曹猿たれ人閧謔闥はれよと。
一六八 記せよ、爾曹の上帝が、復活の日至るまで渠等に抑壓を加ふべきある民を(猶太人に)送るべしといひし時を、爾曹の上帝は處罰に速にしてまた宥赦仁慈にも急なれば。
一六九 われ渠等を世界の國民の閧ノ分散せり。その或ものは正しき人なれど或ものは然らず。われ渠等に昌榮と困厄とを以て證するは渠等を(不從順より)轉向せんためなり。
一七 渠等の後には聖典を授かりし繼承す。渠等は現世の世闢I善業を受けていふ、そは必ず吾曹を赦すならんと。されどまた同樣の世闢I利u提供さるれば渠等之を受く。渠等は~に就きて眞理の外何事をも語るべからずとは聖典の渠等に確立せる所約に非ずや。而も渠等は典中の所載を讀す。來世の享樂は(斯るヘ民の惡しき所得よりも)~を畏るゝ者には更によろし。(爾曹故に理會せずや)。
一七一 聖典を固持し常に禱を怠らざるには更によろし。われ決して正しきの報償を滅絶せざればなり。
一七二 われ渠等の上に掩蔽の如くにシナイの山を擡げ、渠等にその頭上に落下せんを畏れしめて、わが爾曹に齎らせるヘ法を敬ひて受けよ、その中にある所を記憶せよ恐らく爾曹歸り得ん(といひき。)
一七三 爾曹の上帝その子孫をアダムの腰裏より惹き出して、われ爾曹の上帝にあらずやと(いひて)、そを渠等に證せし時、渠答へき、然り吾曹そを證すと。爾曹復活の日に於て、(吾曹その報知なかりしかば)洵に吾曹はそを注意せざりきといはざるため(に此事を爲せり、)
一七四 爾曹また、洵に吾曹の先は嘗て偶像禮拜の罪あり、吾曹はその後を繼承せる(その)子孫なり、故に爾はその爲せし事の爲に吾曹を滅ぼさんとするかといはざるために。
一七五 斯くしてわれわが表徵を說明すは渠等が(虛榮より)歸り得んためなり。
一七六 またわれわが表徵を下せしにそを避けて惡魔に從ひて爲に誘惑されし人の傳記を(猶太人に)語る。
一七七 われ欲せばわれ確に此人を知識に高めたらん、さるに渠地に傾きて己の嗜慾に從へり。そは例へば犬に類せり、犬は爾曹之を追へば舌を吐き、之を留むるも亦舌を吐く、これ欺瞞を以てわが表徵を誹るに似たり。故に此譚を(渠等に)誦するは渠等をして省察せしむるためなり。
一七八 欺瞞を以てわが表徵を誹るの譬諭は惡なり。渠等は自害ふものなり。
一七九 何人たりとも~の導くところは(正しく)導かるべし、何人たりとも~の欺くところは唯滅亡あるのみ。
一八 加之ならず、われ地獄の爲に妖と人類との多數を創出せり。渠等の心は理會せざる心なり、渠等の眼はざる眼なり、渠等の耳は聽かざる耳なり。恰も野獸の如し、然り獸よりも更に邪路に彷徨ふ、注意なきなり。
一八一 ~に最優れたる名あり、故にそを以て之を喚べ、邪に~の名を用ふるを避けよ、渠等はその所爲の報償を受くべし。
一八二 わが創りしの中には眞理を以て他を導きそれに從ひて正義を行ふ民あり。
一八三 されどわが表徵に對して虛妄を構ふるは、渠等の知らざる所より漸次に破滅に陷ちゆくべし、
一八四 われそれに長く昌へたる生涯を許すべし、わが謀略は有なるために。
一八五 渠等その伴の憑かれざるを思はずや。否、渠は唯公明なる說法なり。渠等は天と地との王國~の創造りし萬物を思はざるや、その終時の將に近からんとするを思はざるや。その時如何に新なる宣明を渠等の信ずべきか。
一八六 ~が迷誤に陷るゝ者には導なし。~は渠等をその不敬~に委して混迷彷徨せしむ。
一八七 渠等は最後の時に就きて爾に問ふべし、何の時にその來るやを。いへ、洵にそれに就きての知識はわが上帝に在り、渠ならでは何人もその定まれる時を宣明する能はず。(その期待は)天に在りても地に於ても悲し、そは急激に爾曹の上に來らざるを得ざればと。渠等は爾曹よくそを知るかを問ふべし。いへ、その知識は唯~にのみ在り、人は殆んど皆そを知らずと。
一八八 いへ、われわが爲に利を圖り害を避くること能はず、~の欲する所を除きては。われ~密を知らばわれ必ず多く善を樂しむべく惡を招かざるべし。洵にわれは信仰の民に向ひて威の警告たり吉事の使たるのみ。
一八九 一人より爾を創りそれよりその妻を創りて雙棲せしめしは~なり。男、女を知りし時女は(一時)輕き荷を擔へり、(容易く)行し得たり。然るにその重くなるや、女は渠等の上帝たる~に向ひ爾吾曹に形正しき兒を授けなば吾曹必ず謝すべしと禱れり。
一九 然るに渠形正しき兒を授けしに、それに對して渠等は渠に伴を作れり。されど渠等の推せるの上遙に~をあらしめよ。
一九一 何物をも創らずして却りて自他に創られし僞の~祇を渠等(~と)同列に推さんとするか、
一九二 渠等に援助を與へ能はざるのみか自己をも助け得ざるを。
一九三 爾、渠等を(眞の)方向に招くとも渠等爾に從はざるべし。爾渠等を招くともまた口を緘すとも渠等にとりては同じかるべし。
一九四 洵に爾曹が~の外に禱るところ(の僞~)は爾曹と同じ奴僕なり。故に渠等を禱りて渠等をして爾曹に答へしめよ、爾曹の言果して眞ならば。
一九五 渠等はくに脚ありや。渠等は握るに手ありや。渠等はるに眠ありや。渠等は聽くに耳ありや。いへ、爾曹の伴に禱れ、而してわれに籠絡を設けよ、勿躊躇ひそ、
一九六 (可蘭の)聖典を下せし~はわが保護なり、渠は正義しきを保護せり。
一九七 されど爾曹が~の外に禱る者は爾曹を援け能はずまた自助くる能はず、
一九八 爾曹導かんことを渠等に禱り求むるとも渠等は聽かざるべし。爾曹渠等の爾曹の方を見るを見んも渠等をざるべし。
一九九 特赦を爲せよ、正しき事を命ぜよ、無知より退けよ。
〇〇 若し惡魔の惡しき誘惑爾曹を(爾曹の義務より惑はさんと)、誘はゞ~に依ョせよ。~は聞き且知ればなり。
一 洵に~を畏るゝ者惡魔の誘惑を蒙らば(~の命を)記憶せよ。而して見よ、渠等明白に見ん罪の危と魔の奸譎とを)。
二 されど(惡魔の)同胞は迷誤を繼續すべく、その後それより遁れざるべし。
三 爾渠等に表徵を齎さるや、渠等いふ、爾はなは一を擇ばざるやと。いへ、われ唯わが上帝よりの天啓に從ふ。これ唯上帝の證跡を有し信に對する示ヘと仁慈となりと。
四 可蘭の讀まるや留意せよ沈默せよ、慈惠を授からんに。
五 爾曹の心中に爾曹の上帝を冥想せよ、肅み且畏れて、高聲を發せずに、朝な、夕な。不用意(の一人)なる勿れ。
六 加之ならずわが上帝とともに在るの天使も傲りてその奉仕を怠らず、~を頌め、~を禮拜す。
隔壁品【アル・アラフ】(1-206節)の解題(題名の由来、啓示時期、内容解説)
此品の名は四節に見ゆる天堂地獄の間たるアル・アラフと稱する隔壁より出づ。
麻訶末が豫言者たる地位の辯明を主とすれば、載する所は勢、古豫言者の往蹟そのヘ法豫言的權威を拒みし者の應報多し。蓋し此等の事總べて麻訶末自家の模本たることは最不用意の讀者と雖も看過し得ざる所なり。其性情その權威その使命、~感に伴ふ要求その派遣されし民族の不信頑迷と豫言者の排斥、不信者に對する~の急激なる恐る可き審判の威嚇、總べてこれ麻訶末の事蹟に反する所以にして、その各條の譚柄より生ずる推想は、默伽の豫言者を排斥受拒すれば、古のゥ豫言者を拒みしゥ民族の上に起りしと同じ見る可き~裁の孤列種族の上に下る可きをけるなり。
時代
九五の饑饉九六のその後の昌安は全卷の調と相待ちて、此時代をヘジラ直前にありと推定し得べきに似たり。た然らざるものは一五八−一六、 一六四−一七一、二段なり。前段は明に默那默示の如し。そは第一に猶太基督ヘの豫言と相反せる無學の豫言の稱は默伽よりは寧ろ默コ那にての稱なること、第二に律戒と音なる語は默コ那默示以外になきこと、第三に渠を助くといへるは默コ那の應援アニサルを指すこと、第四に一五七にて斷絶せる說ヘの筋の一六一に至りて復續きて明に其竄入を示せること等によりて證す可し。
後段の默コ那默示たるにはネルデクの如き反對あり。されど可蘭中の猶太の事を記するや前出は詳し後出は略說するを常とす。今此段の記述を見れば寧ろ默コ那默示たるに似たりとの說あり。
內容
可蘭の疑なきこと(二)。
そを信ずべき勸(三)。
不信の爲に市城の滅びしこと(四−五)。
審判の日に於ける豫言と聽(六−九)。
不信者の不感謝(一)。
アダムの創生(一一)。
アダムの禮拜を拒みし惡魔(一一−一二)。
惡魔天堂より逐はる(一三)。
其復活の日までの猶豫(一四−一五)。
其誘惑の誓(一六−一七)。
~の惡魔とその犧牲との威喝(一八−一九)。
アダムとイヴとの墮落(二−二四)。
天堂より逐はる(二五−二六)。
陋俗の咎(二七−二九)。
禱りて~を求む(三−三一)。
眞の禮拜の禮裝(三二−三四)。
各民族の定命(三五)。
~の使徒を拒みしの罪(三六−四二)。
眞の信(四三−四五)。
不信の呪(四五−四六)。
アルアラフの障壁と壁上の人(四七−五)。
~の使徒を排斥せしの遺却(五一−五二)。
麻訶末を排斥するの警告(五三−五四)。
創世主への奉仕(五五−五九)。
ノアを排斥せしの運命(六−六五)。
フドを排斥せしアド族の運命(六六−七三)。
サリを排斥せしタムド人の運命(七四−八○)。
ロドの排斥、ソドムの滅却(八一−八五)。
シユァイブを排斥せしマヂアンの運命(八六−九四)。
困厄昌榮にあへる默伽の不信(九五−九六)。
~の使徒を排斥せる市城の運命(九七−一一)。
其嫌忌(一二−一三)。
セ、ファラオに至る(一四)。
蛇と白手との奇蹟(一五−一八)。
埃及魔術の召集(一九−一一五)。
セと魔術との奇蹟競べ(一一六−一二)。
魔術セに歸す(一二一−一二三)。
それに對するファラオの怒(一二四−一二七)。
ファラオのモセと其民との處刑(一二八)。
セの其民に對する堅忍の戒(一二三−一三)。
ファラオ攝伏の無(一三一−一三二)。
埃及の流疫(一三三−一三四)。
埃及人の僞善(一三五)。
(一三六)。
セの民の捷利(一三七)。
イスラエル族の偶像信仰(一三八−一四一)。
アアロンの代理、四十日齋(一四二)。
~の光榮を見んとの希望(一四三)。
~のモセに授けし二表(一四四−一四五)。
豫言を僞瞞と爲す異端(一四六−一四七)。
セの民の金牛の崇拜(一四八)。
其改悛(一四九)。
セ、アアロンを責む(一五○)。
セ、自己とアアロンとの爲にる。(一五一)。
セ偶像信へ報復を禱る(一五二)。
~の信に對する仁慈(一五三)。
セ怒を和ぐ(一五四)。
セ、七十の長を撰ぶ(一五五)。
セ、雷火の災を免れんと禱る(一五五−一五六)。
セの豫言せる無智の豫言(一五六−一五九)。
猶太人中の正導(一六)。
イスラエル十二族に分る(一六一)。
岩のC水と滿那(一六一)。
贖赦をいひて市城に入ること(一六二−一六三)。
安息日を犯せし者猿と化す(一六四−一六七)。
猶太族の四散(一六八−一六九)。
セの法を守る其子孫(一七−−七一)。
~シナイ山をイスラエル族の上に擡ぐ(一七二)。
アダムの子孫への~約(一七三−一七五)。
バラアムの呪(一七六−一七九)。
地獄の爲に創られし妖と人(一八)。
~名(一八一−一八二)。
~の不信を滅却する手段(一八三−一八四)。
麻訶末は惡魔に憑られず(一八五)。
救はれざる(−八六)。
不意に來る最後の時(一八七)。
說法たる麻訶末(一八八)。
アダム、イヴの偶像禮拜(一八九−一九)。
偶像禮拜の罪惡(一九一−一九五)。
麻訶末に溫厚の令(一九九)。
~名を用ひて惡魔を排す(二〇〇−二一)。
改めざる默伽の民(二二)。
其麻訶末の誹譏(二三)。
可蘭の靜聽と~聖なる冥思(二四−二六)。
隔壁品【アル・アラフ】(1-206節)の註釋(文字の解釈)
一 エリフ•ラム•ミム•サド(A.L.M.S)の四字は、或說にてはAmara li Muhammad Sandiq(斯くわれ信誠なる麻訶末に語る)の略字なりといふも、下卷末の記事と黃牛品一の註釋とを參照す可し。
一一 前の創りは靈を創り、後の作りは形體を作るとの註釋あり。
三九 「妹」は一民族の偶像其他の惡例を他の民族に示すをいふ。「孰にも侍せん」の意は、例も示し俑を作りしに自ヘを犯せるのみか他をして亦之を犯さしめし故に、其例に倣ひしは自己の不信と他の惡例を學びしとの故に。第五章所用原本に第四章の段落を脫落せり。
四七 隔膜は則、隔壁なり、アル•アラフal Arafを指す。此句此品名の由りて出づる所なり。但しアルアラフの上に立つといふ人は如何の人にや、註釋の說區たり。最普通に行はる說にては、行爲の善惡平均相常りて天堂にも入り得ず地獄にも墮ちざるものなりとす。他の說によれば、殉道名なる信にて、其受くべき報賞とるべき苦痛とをせ知るなりとし、更に他の說にては人の形をなせる天使なりとす。但し下の「渠等は(そを)熱望しながら其處に入る能はず」といへる句より推量すれば、墮獄の罪もなけれどまた直に昇天の賞をも得ず若干時の間兩界の中間に淹留煩悶する所謂淨罪界の人なりと爲す可きが如し。渠等の記識とは祝者の面は白く呪咀されしはKしと前品に見へたるをいふ。
四九 「記識にて知るある人」とは不信の首領なり。「~の慈惠の及ばざる人」とは貧困なる信にして、其下の「爾曹天堂に入れ」とは上の「此等の人」、則、貧困なる信に向かつて言ふ語と解せらる。
五四 聖典の解釋の來るとは其所謂報償の充實をいふ。渠等の不敬~にも想像せし所とは眞~以外の僞~偶像なり。
五五 ~の寶座は究頂天なり。
五七 世界の改造の後は~の豫言を送り人間の改造改悛の爲に其ヘ法を默示せるのちの意な。
五八 死地は雨水を唯一の生育力とョむ漠域をいふ。
 六以下のノアの一段は麻訶末自己の地位を譬諭せるなり。
六六 アドAdは亞剌比亞の一强族にて熱烈なる偶像信なり。其主要なる~四位あり。サキアSakiaは雨を司りハフイダHafidhaは安全を司り、ラジカRazikaは食物を司り、サりマSalimaは健康を司る。フドHudはタ-ムドThamudとともにプトレメオスの書に見ゆる亞剌比亞の民族たりしが麻訶末時代にはに滅亡せり。亞剌比亞人の口碑に據れば~譴に觸れしに因ると爲す。
 亞剌比亞の傅說に斯る太古の民は大は百キユピトより小なるも六十キユピトの身長ありきといふ。
七二 アド族に三年の旱魃あり。カイル•イブン•イタルKail Ibn Itharムルタド•イブン•サアドMurthad Ibn Sad等七十人と與にメッカに詣りて雨を禱らんとす。當時メッカを領有せしアマレクAmalekの君ムアイヤ•イブン•パクル之を城外に迎へて盛宴を張りしかば、一行皆飮宴の爲に使命を忘る。旣にして歌女唱歌によりて諷するや、忽驚き悟りしムルタドは其所望を達する唯一手段は改悛して豫言に從ふのみと爲せしに、他の衆之をスばず、ムアイヤに謂ひて之を拘禁せしに、カイル衆と與にメッカに入りて雨を禱る。時に白雲紅雲K雲あらはれ天上より聲ありて欲する所を擇ばしむ。カイルK雲を以て最多量の雨ありとなして之を擇ぶ。然るにK雲至るや~譴亦至り暴風一過して忽衆を粉せりといふ。
七四 タムドの君ジュンダイブンアムルJunda Ibn Amuruサリに向ひて、其傍に立てる石を子もちの牝駱駝に化する奇蹟を示さば其民と與にヘを信ずべしといふ。サリー~に請ひて之を化せしばジュンダは忽ち豫言に歸し、若干の衆亦之に倣ひしも、多數はなほ不信たりしとぞ。
八三 渠等は自淨くすといふはロットと其徒とを指す。
八六 マヂアンMadianまたミヂアンMidianはヒジアヅHijazの一城市にて其民をも斯く名づく。蓋し「創世紀」に出でしアブラハムとケトラとの子たるミジアンより出づと爲す。シュアイブShuaib(sho'haib)は希伯來のモセの父エトロJetroのことなりといふ。ミジアンの民は量尺の大小長短のニを設け用ひて交貿買賣の利を謀りたればこの言あり。
九二、九一 二の間彼此顚倒せるが如き疑あるも本みな斯くあり。また天風を地震と爲せるもあり。
一 亞剌比亞の傳說にいふ、この蛇(龍)毛を生じ、その巨大なること口を開けば廣四キユビト、上顎は宮屋に達し下顎は地を離れず、ファラオ以下驚愕して避走し、衆爲に命を失ふものニ萬五千に上ると。
八 麻訶末ヘの說にてはモセをKと爲せる故,その素手を~異とせるなり。
九 「さらぱ爾曹何とかする」とはファラオの長に向ひて方策を問ひしなり。
一一七 繩を卷きまたは水銀を杖に充て豫め燃やせる火光に照らしなどして蛇龍の形に見せしめき、かくて四萬の蛇を現ぜりといはる。
一三 「爾曹の敵」はファラオ。
一三四 蝨はまた或說には狗蠅の大なるものとし、または蝗の羽翅なきものとす。
一四二 三十夜四十夜といふは三十日四十日に同じ。イスラムヘにての潔齋はにして夜に非ずといへども、亞剌比亞人は夜を以て日數を算するなり。代理の原語は哈利發なり。
一四八 埃及の偶像に擬して金銀珠玉の飾品を集めて犢の形を作りたり。
一五八 光明はヘ法を指す。
一六四 この市城は紅のアイラ、則、エラトなり。事は黃牛品の六四に見ゆ。
六五 此問は信か、不信か、註によりて說區たり。
一七六 或は此人をバラアムBalaamとし若しくは其他亞剌比亞の自稱豫言となし、或はオマイヤー・イブンアビザルトOmaiyya Ibn Abi Zaltとし、或は麻訶末時代に一豫言の出世を說きし猶太のラビと爲す。其孰なるや明かならねども、最有力の說はパラアムとなす說なり。
一八一 麻訶末ヘにては~を尊稱する敬語すべて九十九あり。例えば仁慈ar-Rahman慈悲ar-Rahim司宰(王)al-Malik~聖al-Qaddus靜和as-Salam誠實al-Mumin保護al-Muhaimun偉大al-Haziz等(以下略)。
一八三 「知らざる所より」また「知らざる方法にて」。
八五 伴は麻訶末、憑られざるは惡魔に憑られざるをいふ。
一八九 此一段にきて次の譚あり。イヴ始めて孕むや、惡魔來りて、その孕むは何ものなりや如何にして生むや、またその所生の恐らく獸ならんを問ふ。イヴ答ふる能はず,去りてアダムに謀りしにアダムも亦解く能はず、頗る憂色あり。時に惡魔復至りて、~に禱りてアダムに似たる形正しき子を生ましめんに、アダムが始アブダルラAbdullah(~の奴)と名づけんと思ひしを、アブヅル.ハリトAbdul Harith(ハリトの僕)と名づくべしといふ。ハリトは惡魔の名なり。果して男子生れしも直に死せり。故にアダムとイヴとは偶像信たりきとさる。また他の說に據れば、此の段は麻訶末の先クッサイKussaiとその妻とのこととす。クッサイの妻子を~に禱りて四子を生みしに、之を孤列種族の四~祇によりてアブド•マナフAbd Manafアブド•シアムスAbd Shamsアブヅル•ウツザAbdul Uzzaアブヅル•ダルAbdul Darと名づけたり。
    「無智より退けよ」とは麻訶末のメッカより遁れしヘジラのこと見らる。
Office Murakami