四つの福音書による一つのイエス物語305
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四つの福音書を一つのイエス物語に纏めました
マルコ→マタイ→ルカ→ヨハネの順にイエス物語は発展していきます
物語の初めから終りまでを331の話に分け話の一つ一つを四福音書の日本語訳を並べる形で紹介しています
福音書の日本語訳は英国聖書會社「新約全書」(明治三十九年発行)、日本聖書協會「新約聖書」改譯(大正六年)、日本聖書協会「新約聖書」口語訳(昭和二十九年)を並べて比較できるようにしました
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305
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イエスを殺せバラバを放てと人々叫ぶ
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上の言葉が四福音書の中でどう記されているか、記されていないか
ΚΑΤΑ ΜΑΡΚΟΝ  ΚΑΤΑ ΜΑΤΘΑΙΟΝ ΚΑΤΑ ΛΟΥΚΑΝ ΚΑΤΑ ΙΩΑΝΝΗΝ
馬可傳iケ書 馬太傳iケ書 路加傳iケ書 約翰傳iケ書
マルコ傳iケ書 マタイ傳iケ書 ルカ傳iケ書 ヨハネ傳iケ書
マルコによる福音書 マタイによる福音書 ルカによる福音書 ヨハネによる福音書
15;6〜15 27;15〜26 23;13〜25 18;39〜40
第一五章六〜一五節 第二七章一五〜二六節 第二三章一三〜二五節 第一八章三九〜四〇節
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英国聖書會社「舊新約全書」(明治三十九年発行)の「新約全書」で見てみましょう
馬可傳iケ書第一五章
六 この筵には彼等が求に任せて一人の囚人を赦すの例なり
七 時にバラバと云るあり己と共に謀叛せし黨と同く繫れ居たりしが彼等はその謀叛のとき人を殺しゝ者等なり
八 人聲を揚て呼り恒例の如せん事を求り
九 ピラト彼等に答て曰けるはユダヤ人の王を爾曹に我が釋さん事を欲むや
十 是ピラト祭司の長等の嫉に因てイエスを解したりと知ばなり
十一 祭司の長民どもにバラバを釋さん事を求と唆む
十二 ピラトまた答て彼等に曰けるは然ばユダヤ人の王と爾曹が稱るには何を我が處ん事をなんぢら欲むや
十三 彼等また叫びて之を十字架に釘よと曰
十四 ピラト彼等に曰けるは彼なんの惡事を行しや彼等ますます叫びて之を十字架に釘よと曰
十九 ピラト民のびを取んとしてバラバを彼等に釋しイエスを鞭ちて之を十字架に釘ん爲に付せり
馬太傳iケ書第二七章
十五 この祭の日には方伯より民の願に任せて一人の囚人を釋の例あり
十六 時にバラバと云る一人の名高き囚人ありければ
十七 ピラト民の集りしとき彼等に曰けるはバラバか又はキリストと稱ふるイエスなる乎なんぢら誰を釋さんと欲ふや
十八 これ嫉に由てイエスを解したりと知ばなり
十九 方伯審判の座に坐すたる時その妻いひ遣しけるは此義人に爾干ること勿れ蓋われ今日夢の中に彼につきて多く憂たり
二十 祭司の長長老たちバラバを釋しイエスを殺さんことを求と民に唆む
二一 方伯こたへて彼等に曰けるは二人のうち孰を我なんぢらに釋さんことを望むや彼等バラバと答ふ
二二 ピラト曰けるは然ばキリストと稱ふるイエスに我なにを處べきか衆いふ十字架に釘よと
二三 方伯いひけるは彼なにの惡事を行しや彼等ますます喊叫て十字架に釘よと曰
二四 ピラトその言のuなくして唯亂の起んとするをしり水を取て人の前に手をあらひ曰けるは此義の血に我は罪なし爾曹みづから之に當れ
二五 民みな答て曰けるは其血は我と我の子孫に係るべし
二六 是に於てバラバを彼等に釋しイエスを鞭ちて之を十字架に釘ん爲に付したり
路加傳iケ書第二三章
十三 ピラト祭司の長有司および民等を呼あつめて
十四 曰けるは爾曹この人を我に携來りて民を亂したるなりと爲せり我なんぢらが訟る所を以て爾曹の前に鞫ども其罪あるを見ず
十五 ヘロデも亦然り爾曹をヘロデに遣せど彼もイエスが行事の死罪に當を見ざりき
十六 故にわれ笞ちて之を釋さん
十七 蓋この期に必ず一人を釋こと有ばなり
十八 彼等みな一齊よばはりて此人を除きバラバを我に釋せと曰
十九 彼は城下に一揆を起し人を殺して獄に入しなり
二十 故にピラトはイエスを釋さんと欲ひ復かれらに曰しかど
二一 かれら呼りて之を十字架に釘よ十字架に釘よと曰
二二 ピラト三次いひけるは彼は何の惡事を行しや我いまだ彼の死罪あるを見ざれば笞ちて釋さん
二三 彼等く聲をたて彼を十字架に釘んと言募れり遂に彼等と祭司の長の聲勝たり
二四 ピラトその求の如く擬て
二五 彼等が求る一揆を起し人を殺して獄に入たるを釋し其意に任せてイエスを付せり
約翰傳iケ書第一八章
三九 爰に爾曹に一の例あり我踰越のに一人の囚人を爾曹に釋す爾曹ユダヤ人の王を釋さん事を欲ふや
四十 衆人また喊叫いひけるは斯人に非ずバラバを釋せバラバは盜賊なる也
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日本聖書協會「新約聖書」改譯(大正六年)で見てみましょう
マルコ傳iケ書第一五章
六 さて祭の時には、ピラト民の願に任せて、囚人ひとりを赦す例なるが、
七 爰に一揆を起し、人を殺して繫がれをるの中に、バラバといふあり。
八 群衆すすみ來りて、例の如くせんことを願ひ出でたれば、
九 ピラト答へて言ふ『ユダヤ人の王を赦さんことを願ふか』
 これピラト、祭司長らのイエスを付ししは、嫉に因ると知る故なり。
一一 然れど祭司長も群衆を唆かし、反つてバラバを赦さんことを願はしむ。
一二 ピラトまた答へて言ふ『さらば汝らがユダヤ人の王と稱ふるを我いかに爲べきか』
一三 人また叫びて言ふ『十字架につけよ』
一四 ピラト言ふ『そも彼は何の惡事を爲したるか』かれら烈しく叫びて『十學架につけよ』と言ふ。
一五 ピラト群衆の望を滿さんとて、バラバを釋し、イエスを鞭ちたるのち、十字架につくる爲にわたせり。
マタイ傳iケ書第二七章
一五 祭の時には總督、群衆の望にまかせて、囚人一人を之に赦す例あり。
一六 爰にバラバといふ隱れなき囚人あり。
一七 されば人の集れる時、ピラト言ふ『なんぢら我が誰を赦さんことを願ふか。バラバなるか、キリストと稱ふるイエスなるか』
一八 これピラト彼らのイエスを付ししは嫉に因ると知る故なり。
一九 彼なほ審判の座にをる時、その妻、人を遣して言はしむ『かの義人に係ることを爲な、我けふ夢の中にて彼の故にさまざま苦しめり』
 祭司長長老ら、群衆にバラバの赦されん事を請はしめ、イエスを亡さんことを勸む。
二一 總督こたへて彼らに言ふ『二人の中いづれを我が赦さん事を願ふか』彼らいふ『バラバなり』
二二 ピラト言ふ『さらばキリストと稱ふるイエスを我いかに爲べきか』皆いふ『十字架につくべし』
二三 ピラト言ふ『かれ何の惡事をなしたるか』彼ら烈しく叫びていふ『十字架につくべし』
二四 ピラトは何のなく反つて亂にならんとするを見て、水をとり群衆のまへに手を洗ひて言ふ『この人の血につきて我は罪なし、汝等みづから當れ』
二五 民みな答へて言ふ『その血は、我らと我らの子孫とに歸すべし』
二六 爰にピラト、バラバを彼らに赦し、イエスを鞭ちて十字架につくる爲に付せり。
ルカ傳iケ書第二三章
一三 ピラト、祭司長らと司らと民とを呼び集めて言ふ、
一四 『汝らこの人を民を惑すとして曳き來れり。よ、われ汝らの前にて訊したれど、其の訴ふる所に就きて、この人に愆あるを見ず。
一五 ヘロデも亦然り、彼を我らに返したり。よ、彼は死に當るべき業を爲さざりき。
一六 然ればしめて之を赦さん』
一七 
一八 民衆ともに叫びて言ふ『この人を除け、我らにバラバを赦せ』
一九 此のバラバはに起りし一揆と殺人との故によりて獄に入れられたるなり。
 ピラトはイエスを赦さんと欲して、再び彼らにげたれど、
二一 彼ら叫びて『十字架につけよ、十字架につけよ』と言ふ。
二二 ピラト三度まで『彼は何の惡事を爲ししか、我その死に當るべき業を見ず、故にしめて赦さん』と言ふ。
二三 されど人、大聲をあげ迫りて、十字架につけんことを求めたれば、遂にその聲勝てり。
二四 爰にピラトその求のごとく爲べしと言ひわたし、
二五 その求むる隨にかの一揆と殺人との故によりて、獄に入れられたるを赦し、イエスを付して彼らの心の隨ならしめたり。
ヨハネ傳iケ書第一八章
三九 過越のとき我なんぢらに一人の囚人を赦す例あり、されば汝らユダヤ人の王をわが赦さんことを望むか』
 彼らまた叫びて『この人ならず、バラバを』と言ふ、バラバは强盜なり。
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日本聖書協会「新約聖書」口語訳(昭和二十九年)で見てみましょう
マルコによる福音書第一五章
六 さて、祭のたびごとに、ピラトは人々が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやることにしていた。
七 ここに、暴動を起し人殺しをしてつながれていた暴徒の中に、バラバという者がいた。
八 群衆が押しかけてきて、いつものとおりにしてほしいと要求しはじめたので、
九 ピラトは彼らにむかって、「おまえたちはユダヤ人の王をゆるしてもらいたいのか」と言った。
一〇 それは、祭司長たちがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにわかっていたからである。
一一 しかし祭司長たちは、バラバの方をゆるしてもらうように、群衆を煽動した。
一二 そこでピラトはまた彼らに言った、「それでは、おまえたちがユダヤ人の王と呼んでいるあの人は、どうしたらよいか」。
一三 彼らは、また叫んだ、「十字架につけよ」。
一四 ピラトは言った、「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか」。すると、彼らは一そう激しく叫んで、「十字架につけよ」と言った。
一五 それで、ピラトは群衆を満足させようと思って、バラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたした。
マタイによる福音書第二七章
一五 さて、祭のたびごとに、総督は群衆が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていた。
一六 ときに、バラバという評判の囚人がいた。
一七 それで、彼らが集まったとき、ピラトは言った、「おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストといわれるイエスか」。
一八 彼らがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにはよくわかっていたからである。
一九 また、ピラトが裁判の席についていたとき、その妻が人を彼のもとにつかわして、「あの義人には関係しないでください。わたしはきょう夢で、あの人のためにさんざん苦しみましたから」と言わせた。
二〇 しかし、祭司長、長老たちは、バラバをゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群衆を説き伏せた。
二一 総督は彼らにむかって言った、「ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか」。彼らは「バラバの方を」と言った。
二二 ピラトは言った、「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」。彼らはいっせいに「十字架につけよ」と言った。
二三 しかし、ピラトは言った、「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか」。すると彼らはいっそう激しく叫んで、「十字架につけよ」と言った。
二四 ピラトは手のつけようがなく、かえって暴動になりそうなのを見て、水を取り、群衆の前で手を洗って言った、「この人の血について、わたしには責任がない。おまえたちが自分で始末をするがよい」。
二五 すると、民衆全体が答えて言った、「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」。
二六 そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたした。
ルカによる福音書第二三章
一三 ピラトは、祭司長たちと役人たちと民衆とを、呼び集めて言った、
一四 「おまえたちは、この人を民衆を惑わすものとしてわたしのところに連れてきたので、おまえたちの面前でしらべたが、訴え出ているような罪は、この人に少しもみとめられなかった。
一五 ヘロデもまたみとめなかった。現に彼はイエスをわれわれに送りかえしてきた。この人はなんら死に当るようなことはしていないのである。
一六 だから、彼をむち打ってから、ゆるしてやることにしよう」。
一七 〔祭ごとにピラトがひとりの囚人をゆるしてやることになっていた。〕
一八 ところが、彼らはいっせいに叫んで言った、「その人を殺せ。バラバをゆるしてくれ」。
一九 このバラバは、都で起った暴動と殺人とのかどで、獄に投ぜられていた者である。
二〇 ピラトはイエスをゆるしてやりたいと思って、もう一度かれらに呼びかけた。
二一 しかし彼らは、わめきたてて「十字架につけよ、彼を十字架につけよ」と言いつづけた。
二二 ピラトは三度目に彼らにむかって言った、「では、この人は、いったい、どんな悪事をしたのか。彼には死に当る罪は全くみとめられなかった。だから、むち打ってから彼をゆるしてやることにしよう」。
二三 ところが、彼らは大声をあげて詰め寄り、イエスを十字架につけるように要求した。そして、その声が勝った。
二四 ピラトはついに彼らの願いどおりにすることに決定した。
二五 そして、暴動と殺人とのかどで獄に投ぜられた者の方を、彼らの要求に応じてゆるしてやり、イエスの方は彼らに引き渡して、その意のままにまかせた。
ヨハネによる福音書第一八章
三九 過越の時には、わたしがあなたがたのために、ひとりの人を許してやるのが、あなたがたのしきたりになっている。ついては、あなたがたは、このユダヤ人の王を許してもらいたいのか」。
四〇 すると彼らは、また叫んで「その人ではなく、バラバを」と言った。このバラバは強盗であった。
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