四つの福音書による一つのイエス物語267
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四つの福音書を一つのイエス物語に纏めました
マルコ→マタイ→ルカ→ヨハネの順にイエス物語は発展していきます
物語の初めから終りまでを331の話に分け話の一つ一つを四福音書の日本語訳を並べる形で紹介しています
福音書の日本語訳は英国聖書會社「新約全書」(明治三十九年発行)、日本聖書協會「新約聖書」改譯(大正六年)、日本聖書協会「新約聖書」口語訳(昭和二十九年)を並べて比較できるようにしました
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267
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ベタニアで高い香油を注がれる
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上の言葉が四福音書の中でどう記されているか、記されていないか
ΚΑΤΑ ΜΑΡΚΟΝ  ΚΑΤΑ ΜΑΤΘΑΙΟΝ ΚΑΤΑ ΛΟΥΚΑΝ ΚΑΤΑ ΙΩΑΝΝΗΝ
馬可傳iケ書 馬太傳iケ書 路加傳iケ書 約翰傳iケ書
マルコ傳iケ書 マタイ傳iケ書 ルカ傳iケ書 ヨハネ傳iケ書
マルコによる福音書 マタイによる福音書 ルカによる福音書 ヨハネによる福音書
14;3〜9 26;6〜13 7;36〜50 12;1〜8
第一四章三〜九節 第二六章六〜一三節 第七章三六〜五〇節 第一二章一〜八節
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英国聖書會社「舊新約全書」(明治三十九年発行)の「新約全書」で見てみましょう
馬可傳iケ書第一四章
三 イエスベタニヤの癩病人シモンの家にて食し居たまへる時ある婦蠟石の盒に價貴きナルドの香膏を盛て携來り其盒を裂りイエスの頭に膏を沃たり
四 或人互に怒を含いひけるは此膏をすは何故ぞや
五 之をば三百有奇のデナリを得て貧に施すことを得んと此婦を言咎む
六 イエス曰けるは彼に係る勿れ何ぞ此婦を擾すや我に善事を行へる也
七 貧は常に爾曹と偕に在ば爾曹意に隨せて彼等を濟ることを得べし我は常に爾曹と偕に在ず
八 此婦は力を盡して作り蓋あらかじめ我を葬る爲わが身に膏を沃しなり
九 我まことに爾曹にん天の下いづくにても此音を宣傳らる處には此婦の行し事も亦その記念の爲にに言傳らるべし
馬太傳iケ書第二六章
六 イエス ベタニヤの癩病人シモンの家に居たまへる時
七 ある婦蠟石の物に價たかき香膏を盛てイエスの食する所に携來り其首に斟しかば
八 弟子等これを見て怒を含曰けるは此費のことを爲は何故ぞや
九 若これを賣ば多の金を得て貪に施すことを得ん
十 イエス知て彼等に曰けるは何ぞ此婦を惱すや彼は我に善事を行へる也
十一 貧は常に爾曹と偕にあれど我は常に爾曹と偕に在ず
十二 彼がこの香膏を我體に斟しは我の葬の爲に行る也
十三 われ誠に爾曹にん天の下いづくにても此音の宣傳らる處には此婦の行し事もその記念の爲に言傳らるべし
路加傳iケ書第七章
三六 或パリサイの人イエスを請て共に食せん事を願ければイエスパリサイの人の家に入て食に就り
三七 邑の中に惡行を爲る婦ありけるがイエスがパリサイの人の家に坐せるを知て蠟石の盒に香膏を携來り
三八 イエスの後にたち足下に哭き淚にて其足を濡し首の髮をもて之を拭かつ其足に口を接また香膏を之に抹り
三九 イエスを請たるパリサイの人これを見て心の中に謂けるは此人もし預言ならばは誰なる乎又如何なる婦なる乎を知ん此婦は惡行を爲るなり
四十 イエス之に答て曰けるはシモン我たんぢに言事あり答けるは師よ言たまへ
四一 イエス曰けるは或債主に二人の負債人ありて一人は金五百一人は五十を負しに
四二 償方なかりければ債主この二人を免たり然ば二人のその債主を愛すること孰が多き我に聞せよ
四三 シモン答けるは我おもふに免る事の多きならんイエス曰けるは爾が意ところ違ざる也
四四 遂に婦を顧みてシモンに曰けるは此婦を見か我なんぢの家に入に爾は我足に水を給ず此婦は淚にて我足を濡し首の髮をもて拭り
四五 爾は我に口を接ず此婦は我こに入し時より我足に口を接て已ず
四六 爾は我首に膏を抹ず此婦は我足に香膏を抹り
四七 是故に我なんぢに言ん此婦の多の罪は免れたり之に因て其愛も亦多なり赦ること少きは其愛も亦少し
四八 是に於て其婦に曰けるは爾の罪赦さる
四九 同に坐せるども心の中に謂けるは此人は是何人なれば罪をも赦す乎
五十 イエス婦に曰けるは爾の信爾を救り安然にして往
約翰傳iケ書第一二章
一 逾越のの六日前イエス ベタニヤに至る此處はち死て甦りしラザロの在所なり
二 是に於て或人この處にてイエスに筵席を設くマルタ給仕を爲りラザロもイエスと偕に坐せるのうちの一人なり
三 マリアは眞正のナルダなる價たかき香膏一斤を携來てイエスの足に塗また己が頭髮にて其足を拭へり膏のにほひく室に滿り
四 その弟子の一人なるイスカリオテのユダちイエスを賣さんとする言けるは
五 此香膏を何ぞ銀三百にて貧に施さる乎
六 彼が如此いへるは貧を顧に非ず竊にて且金囊を帶その中に入たる物を奪ふなれば也
七 イエス曰けるは彼に與る勿わが葬の日の爲に之を貯へたり
八 貧は常に爾曹と偕に在ど我は常に爾曹と偕に在ず
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日本聖書協會「新約聖書」改譯(大正六年)で見てみましょう
マルコ傳iケ書第一四章
三 イエス、ベタニヤに在して、癩病人シモンの家にて食事の席につき居給ふとき、或女、價高き混なきナルドの香油の入りたる石膏の壺を持ち來り、その壺をちてイエスの首に注ぎたり。
四 ある人、憤ほりて互に言ふ『なに故かく濫に油を費すか、
五 この油を三百デナリ餘に賣りて、貧しきに施すことを得たりしものを』而して甚く女を咎む。
六 イエス言ひ給ふ『その爲すに任せよ、何ぞこの女を惱ますか、我に善き事をなせり。
七 貧しきは、常に汝らと偕にをれば、何時にても心のままに助け得べし、然れど我は常に汝らと偕にをらず。
八 此の女は、なし得る限をなして、我が體に香油をそそぎ、預じめ葬りの備をなせり。
九 誠に汝らにぐ、全世界、何處にても、音の宣傳へらるる處には、この女の爲しし事も記念として語らるべし』
マタイ傳iケ書第二六章
六 イエス、べタニヤにて癩病人シモンの家に居給ふ時、
七 ある女、石膏の壺に入りたる貴き香油を持ちて、近づき來り食事の席に就き居給ふイエスの首に注げり。
八 弟子たち之を見て憤ほり言ふ『何故かく濫なる費を爲すか。
九 之を多くの金に賣りて、貧しきに施すことを得たりしものを』
 イエス之を知りて言ひたまふ『何ぞこの女を惱すか、我に善き事をなせるなり。
一一 貧しきは常に汝らと偕にをれど、我は常に偕に居らず。
一二 この女の我が體に香油を注ぎしは、わが葬りの備をなせるなり。
一三 誠に汝らにぐ、全世界、何處にてもこの音の宣傳へらるる處には、この女のなしし事も、記念として語らるべし』
ルカ傳iケ書第七章
三六 爰に或るパリサイ人ともに食せん事をイエスに請ひたれば、パリサイ人の家に入りて席につき給ふ。
三七 よ、この町に罪ある一入の女あり。イエスのパリサイ人の家にて食事の席にゐ給ふを知り、香油の入りたる石膏の壺を持ちきたり、
三八 泣きつつ御足近く後にたち、淚にて御足をうるほし、頭のにて之を拭ひ、また御足に接吻して香油を抹れり。
三九 イエスを招きたるパリサイ人これを見て、心のうちに言ふ『この人もし預言ならば觸るの誰、如何なる女なるかを知らん、彼は罪人なるに』
 イエス答へて言ひ給ふ『シモン、我なんぢに言ふことあり』シモンいふ『師よ言ひたまへ』
四一 『或る債主に二人の負債ありて、一人はデナリ五百、一人は五十の負債せしに、
四二 償ひかたなければ、債主この二人を共に免せり。されば二人のうち債主を愛すること孰か多き』
四三 シモン答へて言ふ『われ思ふに、多く免されたるならん』イエス言ひ給ふ『なんぢの判斷は當れり』
四四 斯て女の方に振向きてシモンに言ひ給ふ『この女を見るか。我なんぢの家に入りしに、なんぢは我に足の水を與へず、此の女は淚にて我が足を濡し、頭にて拭へり。
四五 なんぢは我に接吻せず、此の女は我が入りし時より、我が足に接吻して止まず。
四六 なんぢは我が頭に油を抹らず、此の女は我が足に香油を抹れり。
四七 この故に我なんぢにぐ、この女の多くの罪は赦されたり。その愛すること大なればなり。赦さるる事の少きは、その愛する事もまた少し』
四八 遂に女に言ひ給ふ『なんぢの罪は赦されたり』
四九 同席のども心の內に『罪をも赦す此の人は誰なるか』と言ひ出づ。
 爰にイエス女に言ひ給ふ『なんぢの信仰、なんぢを救へり、安らかに往け』
ヨハネ傳iケ書第一二章
一 過超の祭の六日前に、イエス、ベタニヤに來り給ふ、ここは死人の中より甦へらせ給ひしラザロの居る事なり。
二 此處にてイエスのために饗宴を設け、マルタは事へ、ラザロはイエスと共に席にけるの中にあり。
三 マリヤは價高き混りなきナルドの香油一斤を持ち來りて、イエスの御足にぬり、己が頭にて御足を拭ひしに、香油のかをり家に滿ちたり。
四 御弟子の一人にてイエスを賣らんとするイスカリオテのユダ言ふ、
五 『何ぞこの香油を三百デナリに賣りて貧しきに施さざる』
六 かく云へるは貧しきを思ふ故にあらず、おのれ盜人にして財囊を預り、その中に納むる物を掠めゐたればなり。
七 イエス言ひ給ふ『この女の爲すに任せよ、我が葬りの日のために之を貯へたるなり。
八 貧しきは常に汝らと偕に居れども、我は常に居らぬなり』
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日本聖書協会「新約聖書」口語訳(昭和二十九年)で見てみましょう
マルコによる福音書第一四章
三 イエスがベタニヤで、重い皮膚病の人シモンの家にいて、食卓についておられたとき、ひとりの女が、非常に高価で純粋なナルドの香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、それをこわし、香油をイエスの頭に注ぎかけた。
四 すると、ある人々が憤って互に言った、「なんのために香油をこんなにむだにするのか。
五 この香油を三百デナリ以上にでも売って、貧しい人たちに施すことができたのに」。そして女をきびしくとがめた。
六 するとイエスは言われた、「するままにさせておきなさい。なぜ女を困らせるのか。わたしによい事をしてくれたのだ。
七 貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるから、したいときにはいつでも、よい事をしてやれる。しかし、わたしはあなたがたといつも一緒にいるわけではない。
八 この女はできる限りの事をしたのだ。すなわち、わたしのからだに油を注いで、あらかじめ葬りの用意をしてくれたのである。
九 よく聞きなさい。全世界のどこででも、福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も記念として語られるであろう」。
マタイによる福音書第二六章
六 さて、イエスがベタニヤで、重い皮膚病の人シモンの家におられたとき、
七 ひとりの女が、高価な香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、イエスに近寄り、食事の席についておられたイエスの頭に香油を注ぎかけた。
八 すると、弟子たちはこれを見て憤って言った、「なんのためにこんなむだ使をするのか。
九 それを高く売って、貧しい人たちに施すことができたのに」。
一〇 イエスはそれを聞いて彼らに言われた、「なぜ、女を困らせるのか。わたしによい事をしてくれたのだ。
一一 貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。
一二 この女がわたしのからだにこの香油を注いだのは、わたしの葬りの用意をするためである。
一三 よく聞きなさい。全世界のどこででも、この福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も記念として語られるであろう」。
ルカによる福音書第七章
三六 あるパリサイ人がイエスに、食事を共にしたいと申し出たので、そのパリサイ人の家にはいって食卓に着かれた。
三七 するとそのとき、その町で罪の女であったものが、パリサイ人の家で食卓に着いておられることを聞いて、香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、
三八 泣きながら、イエスのうしろでその足もとに寄り、まず涙でイエスの足をぬらし、自分の髪の毛でぬぐい、そして、その足に接吻して、香油を塗った。
三九 イエスを招いたパリサイ人がそれを見て、心の中で言った、「もしこの人が預言者であるなら、自分にさわっている女がだれだか、どんな女かわかるはずだ。それは罪の女なのだから」。
四〇 そこでイエスは彼にむかって言われた、「シモン、あなたに言うことがある」。彼は「先生、おっしゃってください」と言った。
四一 イエスが言われた、「ある金貸しに金をかりた人がふたりいたが、ひとりは五百デナリ、もうひとりは五十デナリを借りていた。
四二 ところが、返すことができなかったので、彼はふたり共ゆるしてやった。このふたりのうちで、どちらが彼を多く愛するだろうか」。
四三 シモンが答えて言った、「多くゆるしてもらったほうだと思います」。イエスが言われた、「あなたの判断は正しい」。
四四 それから女の方に振り向いて、シモンに言われた、「この女を見ないか。わたしがあなたの家にはいってきた時に、あなたは足を洗う水をくれなかった。ところが、この女は涙でわたしの足をぬらし、髪の毛でふいてくれた。
四五 あなたはわたしに接吻をしてくれなかったが、彼女はわたしが家にはいった時から、わたしの足に接吻をしてやまなかった。
四六 あなたはわたしの頭に油を塗ってくれなかったが、彼女はわたしの足に香油を塗ってくれた。
四七 それであなたに言うが、この女は多く愛したから、その多くの罪はゆるされているのである。少しだけゆるされた者は、少しだけしか愛さない」。
四八 そして女に、「あなたの罪はゆるされた」と言われた。
四九 すると同席の者たちが心の中で言いはじめた、「罪をゆるすことさえするこの人は、いったい、何者だろう」。
五〇 しかし、イエスは女にむかって言われた、「あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して行きなさい」。
ヨハネによる福音書第一二章
一 過越の祭の六日まえに、イエスはベタニヤに行かれた。そこは、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロのいた所である。
二 イエスのためにそこで夕食の用意がされ、マルタは給仕をしていた。イエスと一緒に食卓についていた者のうちに、ラザロも加わっていた。
三 その時、マリヤは高価で純粋なナルドの香油一斤を持ってきて、イエスの足にぬり、自分の髪の毛でそれをふいた。すると、香油のかおりが家にいっぱいになった。
四 弟子のひとりで、イエスを裏切ろうとしていたイスカリオテのユダが言った、
五 「なぜこの香油を三百デナリに売って、貧しい人たちに、施さなかったのか」。
六 彼がこう言ったのは、貧しい人たちに対する思いやりがあったからではなく、自分が盗人であり、財布を預かっていて、その中身をごまかしていたからであった。
七 イエスは言われた、「この女のするままにさせておきなさい。わたしの葬りの日のために、それをとっておいたのだから。
八 貧しい人たちはいつもあなたがたと共にいるが、わたしはいつも共にいるわけではない」。
Office Murakami